変わったものを拾った。

本を読んでいたらふと、アジトの外に微かな気配を感じ、本を閉じる。
先程も賞金首ハンターと名乗る男が乗り込んできたが、そいつよりももっとか弱いオーラ。
もしかしたら絶が下手くそなだけな侵入者かもしれないので様子を見に行く。が、見付けた、というより見た途端、呆気に取られてしまった。
敵かと思っていた人物は、泥だらけの服を着て膝を抱え、親と逸れた子犬のように震え縮こまっていた。
演技の可能性もある、と考え警戒心を緩めずに近付くも、その間彼女は少しも動こうとしない。耐えず声をかけると、驚いたように跳ねる肩を見て敵ではないと確信した。
それならば迷子か。いつまで経っても震えて顔を上げようとしない彼女にいらつき、腕を掴んで先程よりも低い声で凄む。すると彼女は右ポケットからペンのようなものを取り出し、文字を地面に書きなぐった。
少々その行為に驚き呆気に取られていたが、何故か面白い、と思った。
彼女が書いた文字からしてジャポン出身だろう。その事を言うと女は初めて顔を上げた。雨と涙で汚れている割には整った顔をしていると思った。

アジトの中に入れ、パク達に彼女のことを話し、記憶を読むようにと指示を出す。シャルは顔が好みなのか、興味津々に彼女を見ており少し不愉快だったのでバスタオルを取りに行かせる。必要ないとは思うが、マチには彼女の見張りを任せた。
パクが記憶を読んでいる間に俺はメモ用紙、ペンを用意する。生憎、ジャポンの国の言語の読み書きは出来ないのでハンター語のあいうえお表も作る事にした。うむ、我ながら上出来。
戻ると、何故か彼女は泣いていた。シャルが何かしたらしい。説教でもしてやろうかと思ったが、彼女を見て、思わず口を閉じた。
彼女の笑った顔初めて見たな、と思いぼうっとしていると彼女はこちらを見てあたふたし始めた。可笑しくて口元が綻びる。

「これを使え」

そう言って先程用意したメモ用紙らを渡すと、彼女は不思議そうにあいうえお表を見ていた。パクによると、彼女は異世界の住民で、どうやらハンター文字を知らないらしい。
こちらの世界の文字だと教えてやると、一瞬彼女の瞳が微かに揺れたが、直ぐに戻って小さく頷いた。


"苗字 名前です。表と紙とペンありがとうございます。"

名前。これが彼女の名前。わざわざお礼なんて、と思ったが性格上言わなければ気が済まないタイプなのだろう。
まだ慣れていない手つきで書くハンター文字は、一般人のそれよりも綺麗に書かれていた。筆談に慣れていて、書くのが得意だからだろうか。
そういえば俺もまだ名前を言っていなかったかなと思いながら、マチが宜しくと言うと彼女は目を丸くしたので首を傾げる。
理由を聞く前に彼女は何かを書きはじめ、見ると何故自分を殺さないのかと質問してきた。
どうしてそうなるのか。疑問に思ったが、それは直ぐに解決された。恐らく彼女は外にあった死体を見てしまい、またこんなところにアジトを置く私達の誰かが殺したものだと考えたのだろう。まあ間違ってはいない。
自己解決が済んだところで名前を見遣る。彼女は至極怯えた、しかしどこか諦めたような表情でこちらを見ていた。

「死にたいのか」

俺は彼女が死を望むならば殺そうと思った。が、返ってきた答えは予想だにしないもので思わず吹き出してしまいそうになった。他の三人も呆れたような顔をしていた。

−−−迷惑でない…か。

いつもならばここで彼女を殺していただろう。いかにも弱そうな彼女を生かしておいたところでこちらには何のメリットもない。…が、なぜか俺は生かした。しかもここにいればいいだなんて、お人よしもいいとこだ。
名前は肩身の狭い生活を送ってきたのだろう、声の使えないことを大分気にしているようだ。
それでも俺はいいと言っているんだから、気にすることなんてない、と納得させるように流星街の話しをする。
彼女はあまりにも綺麗に泣いた。



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