三人は彼女が書き終わるのを黙って見ていた。そのため、今この場には自分がペンを走らせる音だけが響いていた。
(……合ってるのかな)
書き終わったメモ用紙を三人の前に出す。
彼らは読み終わった後、ふ、と笑った。
「苗字ね」
「いや、彼女はジャポンに似た文化の生まれだから名前は名前だろう」
「ああ、成る程」
「宜しくね、あたしマチ」
マチと名乗った目付きの鋭いお姉さんが目の前に手を差し出した。
突然のことで一瞬なんのことかわからなかったが、握手を求められていると理解すると慌てて手を握った。
"ころさないんですか?"
メモ用紙にそう書くと三人は目を丸くした。
「……何故そう思う?」
クロロさんが言い、何故なのか少し考えたら、脳裏に先程の死体が思い出されて微かに手が震えた。
"そとにしたいがあったから"
そう書いて差し出すと、クロロさんは顎に手をあてて考えるそぶりを見せた。
彼は暫く思考を懲らして、ふと頭を上げた。
「名前は死にたいのか?」
もしここで死にたいと言えば殺すのだろうか。生きたいと言えば生かすのだろうか。
"迷惑でないほうで"
どっちにしろ、この世界に私の居場所はないし、かといって元の世界に戻りたいとも思わない。
だから、孤独であるはずのこの世界で小さな繋がりを与えてくれた彼らに迷惑をかけないことが、今私の出来る最善の行動である。
死ねと言われれば黙って殺されよう。そう思っていた。
「…そうか。ならばここにいればいい」
なのでクロロの言葉に心底驚いて顔を上げると、彼は優しく微笑んでいて、また泣きそうになった。
"しゃべれないんですよ"
「それがどうした。紙とペンがなくなったら言えばいい」
"めんどくさくないですか"
「じゃあ、邪魔になったら殺すさ」
殺す、という言葉に安心する私は可笑しいのだろうか。
しかしどうして、いかにもめんどくさい部類に入る私なんかを、赤の他人である彼らが匿おうとするのか。
そう聞くと、彼はそんなことかと言って薄く笑った。
「俺達は流星街という…いわば捨てられた街で、そこにいる者は皆一人で生きてきた。だから、同じ様な境遇のお前を見捨てることは出来ない」
「…………」
初めて言われた言葉に、思わず抑えていた涙が溢れた。
二回目なので、恥ずかしさに顔を下げると、クロロが優しく頭を撫でたのでもっと溢れた。
しかし嬉しさとは反面、これからも他人と接し続けなければならないことに、少し気が重くなった。
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