アンケより/イルミ







「あれ、お前誰?」

「…………」

広間でクロロさんに借りた本を読んでいたら、突然黒髪の知らない人が訪ねてきた。ここに来るということはきっと普通の人ではないのだろう。現に気配を消すのが上手いのか、侵入者なのに斜め後ろで寝ているノブナガさんは起きる気配がない。
今アジトにいるのは私を合わせて四人だけ。他の二人のフェイタンさんとフィンクスさんは自室にいる。
ノブナガさんを起こすのは申し訳ないし、だからといってフェイタンさんのとこに行ったら虐められそうだし…。ここはフィンクスさんのところに行こうか。

「ちょっと、どこ行くの」

「!」

そう考えて本を閉じ、立ち上がろうとしたら肩を捕まれて止められる。びっくりして頭を上げると、表情のない彼の顔に少し苛立ちが表れていた。…それもそうか、挨拶もなしに何処かに行ってしまっては失礼だ。
少し怖いけどポケットから紙とペンを取り出して用件を書く。…ああ、一瞬ハンター文字を忘れたかと思った。

"名前です。こちらに居候させて頂いてます。どなたかにご用ですか"

それを見せると黒髪の人は少し驚いた顔をして喋れないの?と問いた。軽く頷けばふーん、と言って顎に手を置き何やら考えはじめた。
苦手な人だなあ、と思う。基本他人とコミュニケーションをとること自体苦手なのに、それに加え表情も微かにしか捉えられない。所謂何を考えているのか解らない人だ。これでは喋れる人も苦労するのではないだろうか。

「うーん、俺クロロに用があるんだけど。いる?」

首を横に振るとそう、と言って私の肩から手を離す。
あれ、まだ掴まれてたのかと一人驚いていると、男の人は私の隣に腰を下ろした。かなりびっくりしたけど、露骨にそんな態度をとってしまっては失礼だと思ったので静かに本を閉じ、席を立った。

「……なにそれ」

どんな人であれクロロさんのお客さんには違いない。そう思い、お茶を用意して彼の元へ戻ったところ先程の台詞である。
もしかして紅茶のほうがよかったのかも…いや、それともコーヒー?そう聞くと彼は少し間を置いて何でもいいけど、と言って湯呑みに口を付けた。

「…お前、変な奴だね」

彼に先程までの警戒の色はなく、そのかわり人を小馬鹿にしたような顔で言った。
ムッとして文句を言う(正しくは書く)前に彼は視線を逸らしてズズズ、とお茶を飲み始めていた。なんとなく、わかった。この人からはどことなくフェイタンさんと同じにおいがする。なんというか、サディスティックなところとか。

「あ、来た」

「…イルミ?」

聞き覚えのある声がする方を見ると、クロロさんとパクノダさんが帰ってきていた。あ、この人イルミさんって言うのか。

「何か用か?」

「いや、仕事の件でさ。…それより、この女なに?」

この女と私を指差され、クロロさんはああ、と少し申し訳なさそうにこちらを見ていた。

「まあ…居候だ」

だから手を出すな、と言うクロロさんを横目にイルミさんはふうん、とこちらに顔を向けた。
身長の関係で必然的に見下ろされる形になり、体を強張らせる。威圧感に耐え切れなくて思わず目を逸らしてしまった。

「…こいつ面白いよね、お茶も美味いし。ウチに世話係として貰っていい?」

「駄目に決まってるだろ」

何で?ただの居候でしょ?と言うイルミさんに、クロロさんは駄目なものは駄目だと軽くチョップをかましていた。その後ろではパクノダさんがうんうんと頷いている。

「ふうん、まあいいや。名前、ここが嫌になったらいつでも言いなよ」

仕事のことは電話でいいやと言って彼はアジトを後にした。
言うってどうやって…。そう思いふと手元を見ると、先程私が筆談に使った紙に見知らぬ数字が書いてあり、これが彼の電話番号であることに気付くのにはそう時間はかからなかった。



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