特訓が始まって二週間。今日はノブナガさんのターンだ。いつもの走り込みは初日よりは余裕があるけど、やっぱり辛い。だが二週間でこれだけ走れるようになるのは元の世界では多分無理だろう。それと念を修得したことも関係あるのかもしれない。


「楽しそうなことをしているね、ちょっと休憩したら?」

声がして走る足を止める。ノブナガさんがいる場所とは逆の方に私がいる訳だから、決して彼ではない。というか声からして大分違う。声の主を探してキョロキョロしていると鮮やかな水色が視界に入った。それは人で、言っては悪いが何とも怪しいピエロルックをして岩の上に座っている。……ん、ピエロ………ルック…………?

「………おや」

"いつか私を助けてくださったヒソカさんですか?"

「助けた………ああ、そんなこともあったね。そうだよ◆」

ああ、やっと会えた。……何だかこう言うと、今まで遠距離恋愛していた二人みたいだからやめよう。取り敢えずやっとお礼が言える。
何度も頭をペコペコ下げると、ヒソカさんはいいよいいよ、と言って手招きをした。隣に座れ、ということだろう、彼は隣をポンポンと叩いている。……うーん、でも今は特訓中だしなあ。

「大丈夫だって、怒られるのはボクだけでいいから」

私の心情を察したのか、ヒソカさんはそう言った。いや、私としては命の恩人の彼が怒られる方が嫌なのだが……。やっぱり断ろうと口を開いた瞬間、お腹の辺りが何かに引っ張られるように、私はヒソカさんの元へ飛ばされた。ガンと顔を打つ。岩にではない、彼の腹筋にだ。なんて固い腹筋なのだろう、鼻の骨が折れるかと思った。

「クク、大丈夫かい?」

「…………」

よくわからないけどこれも念の力なのかな。鼻を摩りながら頭に疑問符を浮かべる私の様子を見て、ヒソカさんはまだ凝はできないのか、と呟いた。

どれだけ経っただろうか。何時間単位ではないものの、そろそろノブナガさんが不審に思ってしまう頃だろう。私はヒソカさんの方に顔を向けた。この短時間の間に、彼についてわかったことはひとつ。彼は稀にみる変人だ。マチさん達が嫌う理由もわかる気がするけど、私はそこまでヒソカさんが嫌だとは思わなかった。いや、まだ彼が本性を表していないだけかもしれないけど。それでも、ヒソカさんはフィンクスさんと同じく、会話はほぼ彼だけで成り立っていて、至極気が楽だったのも事実だ。まあ内容はフィンクスさんと違って少しグロテスクだけど。
ヒソカさんは楽しげな笑みで、そうそうと思い出したように口を開いた。

「そういえば、近いうちにハンター試験受けるんだ。一回目だから少し楽しみだよ◆美味しそうなヤツいればいいなァ」

ハンター、話で聞いた。この世界の職業の一種で、憧れている人が沢山いるとか。まあ自分とは無縁のものだ。頑張ってくださいとどこかズレた返答をして立ち上がる。本当にそろそろ戻らなければ。
彼の方に向いてお辞儀をすると、ヒソカさんは何も言わずまたね、と手を振った。

「…名前!おっせえぞ、何サボってんだ」

案の定、ノブナガさんが怒りながらやって来る。私はちら、と後ろを見遣った。だがすぐに後悔する。さっきまで確かにいたであろう瓦礫の上には、彼が先程広げて遊んでいた一枚のトランプが残されていた。トランプは一枚でも欠けちゃ駄目だよなあ、なんて今はどうでもいい事が思い浮かぶ。
取り敢えず、やっぱり彼は変人で嘘つきだ。



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