「………っ、」

「はーい、あと三周」

シャルナークさんの悪魔の提案により、次の日早速地獄の特訓が始まった。初日の担当は言い出しっぺの彼。軽く準備運動を済ませてから、まずは手始めにということでアジトの半径二キロメートルを十周、走らされていた。彼は私の体力のなさを配慮しての量だと言っていたが、これは配慮と言うのだろうか。寧ろ彼等の常識のなさが浮き彫りになっている気がする。因みに今の服装はマチさんに借りたジャージだ。コレ絶対汗臭くなる…!

「…はい、お疲れー。タイム5時間13分42秒……うん、もっと早く走れない?」

「……っ、…………!」

「あはは、そっかそっか、ごめんごめん。まあ名前は見た目からして体力なさそうだもんなあ。…ま、まずは10分くらい休憩して、その後は筋トレしようか」

じゅ、10分……!なんてハードなんだ、彼の特訓は。…いや、もしかしたらシャルナークさんはマシな方なのかもしれない。うん、多分そうだ。そうに違いない。だとしたらどうしよう、生きていける気がしない。特にフェイタンさんのとき。…ああ、でもここで弱音を吐いて彼等に絶望されたくないな。
私は膝に手をつき息を整える。酸素が足りないのか、頭がくらくらする。視界がチカチカする中、顔から滴る汗が地面に吸い込まれていくのを眺める。こんなに運動したのはいつ振りだろうか。目をつむって額の汗を拭う。すると突然左頬に冷たい何かが当たり、びっくりして顔を上げると、シャルナークさんがクスクス笑いながらペットボトルのポカリスエットを差し出していた。いつの間にやらアジトの冷蔵庫から持って来たのだろう。私はそれを有り難く受け取ると、一気に口に流し込んだ。控え目な甘さが食道を通って身体全身に行き渡る。頭のズキズキが引いてきたから、あれは水分不足からきていたのだとわかった。ポカリを半分くらい飲み干した時点で、そういえばこれはシャルナークさんが持って来たものだったと思い出し、慌てて口を離す。もしかしたら彼も飲むつもりだったのかもしれない。しかし彼は凄い飲みっぷりだね、と笑っていて、私は恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じた。

"だって特訓がきついです"

「…お、念文字上手くなってきたね。いやいや、これくらいしないと何年経っても強くなんないし。ホントはもっと厳しくしてもいいんだけど、それじゃあ名前倒れちゃいそうだしさ」

わざとらしく肩を上げて困ったふうに話すシャルナークさんに、申し訳なく思う。…そうだ、彼等にお世話になってる分、彼等のレベルに合わせなければいけないよね。
凹んでいる感情が表に出ていたのか、シャルナークさんは慌てたように大丈夫だと私の頭を撫でてくれた。
名前は名前のペースで頑張ればいいよ。
シャルナークさんのその言葉に私がどれだけ鼓吹されたか、きっと彼は知らない。



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