私に兄はいない。従姉妹はいた。けど従姉妹の両親は私を嫌っていたので、娘を私に近づけさせようとはしなかった。そもそも従姉妹は年下だから姉ではない。でもフィンクスさんと接していると、何だか兄を持った気分でくすぐったい。正直に言うと、嬉しかった。


「とんこつラーメン三つ」

はいよー、と厨房の奥からおじさんの元気な声が聞こえる。活気溢れる一般人だらけのこの店に、盗賊がいるなんて誰も考えていないだろう。私だって考えたくもない。

「…ったくよー、シズク、オメーもラーメン好きだったっけか」

「んー、普通」

フィンクスさんが呆れたように溜息をつき、俺と名前の分は支払うけどてめぇは自分で払えよと言うと、シズクさんは食い逃げじゃないの?と言った。そっか、盗賊だもんね。でも食い逃げは駄目だよ。

「馬鹿か、名前がいるんだぜ。食い逃げして店員がコイツの顔覚えてたらどうすんだよ。名前も立派な犯罪者になんだろが」

「そっか。…でも私達と一緒にいる時点で立派な犯罪者だと思うけど。でも困ったなー」

何が、とフィンクスさんが問うと彼女は財布持ってないと言った。シズクさんの場合、部屋の何処に置いたかも忘れていそうで心配だ。
でもお金、か。そういえば彼等はどうやって稼いでいるのだろう。…やっぱ盗品を売ったりして?今まで当たり前のように彼等にお世話になっていて、稼ぐ、なんて考えたこともなかった。私は明日消えるかもしれないけど、もしかしたら何年も、いやずっとこの世界に居続けるかもしれない。そんな中でいつまでも彼等にお世話になる訳にはいかない。いつかは働かなくてはいけないよね。でも喋れない私を雇ってくれる店なんてあるのかなあ。

「……、名前!」

「〜〜っ!」

「何ぼーっとしてんだよ、麺のびるぜ」

すっかり考え事に更けている内にラーメンが出来ていた。というか、結構本気でフィンクスさんに引っ張られた頬が痛い。ちぎれてないかな。

「ねえ名前、いらないならメンマ頂戴」

シズクさんが箸でちょいちょいとそれを指したので、どうぞと器を彼女の方に寄せた。メンマ好きなシズクさん可愛いな。
彼女がメンマを取り終えるのを確認し、器を自分の方に引き寄せて麺に口づける。…あ、美味しい。

「…な、うめえだろ」

誇らしげに言うフィンクスさんに微笑みかけ、もう一度ラーメンを口に運ぶ。とんこつのこってりした味が口に広がり、水の入ったコップに手を伸ばす。とんこつラーメンって喉が渇くよね。あれ、私だけかな。
…ふと、先程の思考が蘇った。もし私がこの世界で職を持ち、これ以上ここに同化してしまっても大丈夫なのだろうか。もしそうなって、突然帰ることになったら、私はもう一度元の世界に馴染めるのだろうか。
自問自答しても答えは見付からない。それでも、と思う。もしもやかもしれないを永遠と考え続けるより、今私に出来ることを、するべきことをすればいいのだ。
無理矢理自己解決に持ち込んで、蓮華を手に取りスープを飲む。するとやっぱり喉が渇いて、冷たい水を口に含んだ。



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