「お、名前!精孔開いたんだってな」
「弱虫子のくせによく死ななかたね」
瞑想中、そう言ってやって来たのは少し顔が恐いけど実は優しいフィンクスさんに、小さいけどドSなフェイタンさん。どうやら、私に起きた不慮の事故を聞き付けてやって来たらしい。
お祝いだと言って赤飯弁当をくれた。本当におめでたいと思ってくれたのか、面白半分でくれたのかわからないが有り難く受け取る。赤飯は好きなのです。
「あー、こらこら!フィンクスにフェイ!名前の邪魔しないでよ」
「邪魔じゃないね」
祝いに赤飯渡しただけだとフィンクスさんが言うと、シャルナークさんはぶっと吹き出して初経がきた女の子かよと笑った。しょ、初経………。
「念はどこまでいった?」
「もうちょっとで練もオッケーかな」
「へえ、思たよりやるね」
フィンクスさんに、お前結構才能あるんじゃね?と言われてかなり嬉しかった。常に自分に自信がない私にとって、そう言われることは面映ゆい反面、プレッシャーともなるのだが。
それでも褒められたので、その期待になんとか応えようと念を練る。溜めたオーラを、噴き出す……!
「…もー練もいいんじゃね?発やれよ、発。俺コイツの系統ちょっと気になるしな」
フィンクスさんがそう言ったので、一旦練をやめてシャルナークさんを見る。が、ふと、視界の端でごそごそしている黒いものを捉え、そちらを向くとフェイタンさんが貰った赤飯を食べていた。私の赤飯…!
食べ続ける彼をじっと見ていると暫くして目が合い、食べかけのそれを返してくれた。てっきり全部食べられるかと思っていたので意外そうな顔をすると、彼はその視線の意味に気付いたのか、ワタシ赤飯苦手ねと言った。嫌なら何で食べたんですか…!
そんなフェイタンさんに小さな虐めを受けているうち、シャルナークさんが水の入ったコップを用意していた。あれが水見式というものか。
「さて名前、今から発の修業をします。このコップに向かってこういう風に発をしてみて」
言われたとおり、コップに手を翳して発を行う。フィンクスさんやフェイタンさんも黙ってその様子を見る。
すると暫くして微かに、水の上の葉っぱが動きはじめた。広間に風は吹いていないのに、葉は小さく左右に揺れる。
「名前は操作系か」
「………いや、待って」
シャルナークさんがフィンクスさんを制し、コップを見守る。何だろうと私も彼等も葉っぱに目をやると、少しずつ、葉の色が落ちはじめた。
(よ、葉緑素……!)
「操作系寄りの特質系だね。クロロが聞いたら喜びそうだ」
「宝の持ち腐れね」
もー、フェイはあんまり名前を虐めない!
そんなシャルナークさんの言葉を小耳に挟みながらも、だんだんと色を無くす葉を見つめる。緑色が水の中に沈み、淀みをつくっている。
改めて、念って不思議だなと思った。と同時に、やっぱりここは異世界なんだと痛感する。いつまでイレギュラーな存在の私はここにいるのだろうか。正直、戻りたくはない。ただ、このままずっと彼等といたら、きっと別れが辛くなる。元の世界に戻っても生きていけないかもしれない。
いつ私がこの世界から消えてしまうのかわからなくて、恐い。そう思うようになったら、多分末期だ。
「…………」
先程念を発した手を見る。なんの変哲もない、私の手。ただ、さっきの葉っぱを見て思ったことが一つ。
(私の念に塩素でも含まれてるのかな)
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