こっちに来て五日。新たにフェイタンさんとフィンクスさんとも知り合った。皮肉なことに、元の世界よりもこちらの方が、私を知る人が既に多くなっていた。


「……でなあ、その時フェイがよ、何したと思う?…俺の大切なエジプト帽子を囮に使ったんだぜ!?とんだサディストだろ」

「………」

「そんでよ、警備の奴らは俺の帽子を敵だと思ったのか、容赦なく銃でズタボロにしやがって……ムカついたからフェイの分まで俺が片付けてやったわけよ!…そーしたらアイツ逆ギレしやがって………」

今広間に私とフィンクスさんの他に誰もいない。クロロさん、パクノダさん、シャルナークさんは自室で調べ物を、どうやら近いうちに仕事をするらしい。フェイタンさんは拷問部屋で道具の手入れを、他の人達は今はアジトにいない。そして私とフィンクスさんは見ての通りお喋りをかれこれ40分ほどしている。
それに気付いたときは、いつの間にこんなに時間が経っていたんだろうとかなり驚いた。時間を忘れるほど話しをするのは初めてだ。前にクロロさんと話していたときは苦痛でしかなかったのに。
疑問に思い、ふと手元を見る。するとそこにあった、話し始めて一度も使われていないメモ用紙を見て疑問はすぐに解決された。

「……そういえば、この前うめえメシ屋見つけてよ。ラーメン好きか?今度連れてってやるよ。そこのとんこつラーメンの美味さといやあ天地がひっくり返るほどでな……」

「………」

そう。今、二人で話しているのではなく、彼が一人で喋っており、対する私はそれを聞いているだけなのだ。舞台の上で一人で話している落語家とそれを聞く観客のように、いちいち返事を必要とせず、頷いたり首を横に振ったりするだけで会話が成り立っている。
それが、彼といて居心地のいい理由なのだ。

だが、それがわかったところで他の人にフィンクスさんと同じ接し方を求めようとは全く考えない。私にそのようなことを言う権利なんてないから。

「……ったく、にしてもフェイのやつムカつくなあ〜!今度アイツの拷問道具を囮に……」

「誰の何を囮にするか」

「!」

突然後ろから声がしたと思い、振り向くと不機嫌な顔をしてフェイタンさんが立っていた。隣のフィンクスさんは青い顔をして、ギギギとぎこちない動きで彼を見る。

「フェ……フェイ………な、何でもねえよ……!っな、名前!」

「………!」

フィンクスさんがそう言うと、フェイタンさんがこちらを向く。
フィンクスさんの裏切るなとでも言いたげな視線と、フェイタンさんの本当の事を言えと暗示する視線が私にぶつかる。

「…………っ」

急なフリにテンパって目線を泳がせる。
その様子を見て、フェイタンさんは私の名前を呼んだので、顔を上げると彼は予想以上に優しい目をしてこちらを見ていた。

「……フィンクスは、ワタシのこと言てたな?」

「…………」

その優しい声色に思わず頷くと、彼はいかにもサディスティックな笑みを浮かべ、隣のフィンクスさんは冷や汗をかいて口元をひくつかせていた。
その数秒後、二人の死闘が始まるも、クロロさんの一喝によりすぐに終わりを告げることになる。



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