初めは微かな違和感から。





「最近、変じゃないか?」
とりあえず、思ったことを目の前にいる本人に尋ねてみる。当の本人・帝人は一瞬きょとんとした後に、首を傾げた。
「何が?」
「お前が」
最近、帝人の様子が以前と違うような気がする。どこが違うのかと聞かれると返答に詰まるが、何かが違う。数日前、杏里にもこのことを話してみたら、杏里は「え…、はあ…、まあ…、…そうですね」と非常に曖昧に頷いていた。その目には困惑の中に憐憫も混じっていたように思う。杏里は理由について何か知っていたのかもしれないが、まあそれは置いといて、だ。
じっと帝人の様子を観察する。すると帝人はふい、と視線をそらした。
「べ、別にいつも通りだと思うけど」
「ほら、また」
「え?」
俺は思いっきり顔をしかめてやった。
「最近すぐに目ェそらすじゃん」
帝人の視線の先に回り込むが、またすぐにそらされる。…意地でも合わさないつもりか。
「別にそんなことないよ。気にしすぎじゃない?そんな目を合わせてする会話でもないし」
「いやいや、こちらとしては常日頃押し入れの隅へと追いやっている真面目さを引っ張り出してまで真剣にお話をさせていただいてるつもりなんですがね。帝人さーん?こっちに視線プリーズ」
「そんな改めて見つめ合ってどうするの。会話は成立してるんだからいいじゃん」
「成立と見せかけて全く成立してねぇぞ。俺の問いに全くもって答える気がないな。それはもう会話とは言わない!お前は俺が優しく優しく投げた豪速球をひらりとかわしている!」
「…豪速球って、優しくないじゃん」
「だからー、いい加減こっち見ろ!」
「!?」
帝人の頬を両手でむぎゅっと挟み、顔を無理矢理俺の方に向けさせた。
「よう、久しぶり、帝人」
「…目が合ったぐらいで大げさな」
一瞬だったが確かに目が合った。よし、この勝負勝ったな。…って、あれ?
「で、何の話だっけ?」
視線を追うのに必死で話していた内容を度忘れしてしまった。帝人は呆れたように溜め息を吐いた。
「忘れてしまう程度の内容の話を真剣とは言わないでしょ」
「いや、真剣だぞ。うん、真剣だった。ただ、途中で主旨が…」
「もういいよ」
唐突に帝人が顔を上げた。再び交わる視線。帝人は微笑んで、俺の頬に手を伸ばした。


どきり。


「じゃあ、帰ろっか。そろそろ手、離して」
「あ、ああ…」
すぐに我に返り、慌てて帝人の頬に当てっぱなしだった手を引っ込める。それと同時に帝人の手も離れていき、何事もなかったかのように再び歩みを進め始めた。


思い出した、話の内容。
帝人が変っていう話。
それはこの数分で確信へと変わった。
「…十分変だ…」
帝人に聞こえないほどの音量で呟き、その背を見つめた。



でも、一番変なのは、顔の火照りが鎮まらない俺かもしれない。









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