暖かで気持ちの良い春の陽気に包まれながら、窓から青空を見上げた。
「良い天気だね」
「だな。なのに俺たち不健康だよなぁ」
くすくす、と小さく笑う声が耳に届く。そして、ふわりと背中に温もりが伝わってきた。以前に感じた優しくて心地良い香りが漂う。
「部屋の中でだらだらごろごろ。青春真っ盛りの高校男子のやることじゃあないよなぁ」
「いいじゃないか。僕らは僕らの青春を満喫してれば」
「帝人、くさいー」
「ええ!?言い始めたの、紀田くんじゃないか…」
数日前とは似ても似つかない穏やかな時間が流れている。それは以前と変わらない日常でもあった。
――ただ、一つ変わったとすればそれは。
「帝人ー、デートしよ」
「今から?今日は家でのんびりするんじゃないの?」
「帝人のくさいお言葉に感動して」
「もー、やめてよ」
背中に抱き着く紀田くんの頭を軽く撫でる。紀田くんは気持ち良さそうに目を閉じた。
「じゃ、出掛ける?どこ行きたい?」
「帝人の行きたいところならどこでも」
「うーん…、取りあえず街に出てみよっか」
「ああ」
穏やかな時間。安心する距離感。
戻ってきた日常は以前と変わらず温かかったけれど、繋いだ手から伝わる温もりは、以前に無かったものだった。
閑静な住宅街に、二つの足音が響き渡った。
あるのは片道切符だけ
もう戻れない。戻らない。
君と二人、歩いて行こう。
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