時間とは残酷だ。どんな状況であっても、必ず朝はやって来る。
そして今日も例外ではなく、飛びきり憂鬱な朝がやって来た。
いつもより、寝覚めが悪かった。きっと起きたくないって思ってるからだろうな、と苦笑する。
ただ嘆いていても状況が変わることはないので、俺は諦めて蒲団から身を起こした。
――朝日ってこんなにも眩しかったっけ。
マイナスの気分からか、徹夜明けに感じるような眩しさに顔をしかめる。

――鬱陶しい…。

朝日が眩しいんじゃない。怖いだけだ。帝人から避けられた事実をはっきりと伝えられるのが、酷く怖いだけ。帝人の口からその事実が肯定された時、俺はいつも通り笑えるのだろうか。
そんな不安を抱えつつ手早く用意を済ませると、玄関の戸を開けた。
眩しい朝日の中に、今まさに考えていた幼馴染みに良く似たシルエットが浮かび上がる。
「………え?」

「おはよ、正臣」

扉を開けると、そこには帝人が満面の笑顔で立っていた。





♂♀


帝人が変だ。昨日以上に変だ。
朝に感じた違和感は、結局放課後になっても消えなかった。
帝人は昨日の様子が嘘のように、いつも通り笑いかけてくれた。
…いや、いつも以上に笑いかけてくれる。
そして。
「今日はナンパ日和だな!よし、三人でナンパに行こう!」
「そんな日和聞いたことないよ。ナンパもいいけど皆でどこか遊びに行かない?」
何だかツッコミに切れがない。というより、無駄に優しい。それに、普段の帝人なら“ナンパもいいけど”なんて例え世界が崩壊しようとも絶対に言わないだろう。
避けられていないことに取りあえずほっとしたものの、いつも通りじゃないことに一抹の不安を覚える。
帝人にどんな心境の変化があったのかは分からない。けれど、俺に対する認識は確実に変わってしまっているのだろう。
それが悲しくて、辛かった。
(自業自得っつったらそれまでだけど…)
動揺を悟られたくなくて、口を開いた。わざとらしく聞こえてしまうかもしれないが、これ以上は堪えられない。
「あー、そう言えば俺、今日用事あるんだったー」
「え、そうなの?」
「という訳で今日は無理だな。また今度遊ぼうぜ」
「そうですね。それでは、私もこの辺で」
「ああ、またなー」
「うん。またね、園原さん」
「はい」
二人で杏里を見送った後、俺は急いで口を開いた。
「じゃ、俺も帰るから。またな!」
「え?あ、ちょっと待って、紀田くん!」
呼び止められ、思わず足を止めた。止めてしまってから後悔する。
「家まで送るよ」
――いや、それは果たして必要か?
そう思いながらも、単純な頭が少し嬉しいだなんて思ってしまい、結局断りきれなかった。




二人きりになっても帝人の態度は相変わらずで、ここまで来てぼろを出さないのは逆に凄いと、尊敬の念まで抱き始めてきた今現在。
――…駄目だ。俺、おかしくなってきてる…。
「あ、正臣」
「んー?」
「そこ、段差に気を付けてね」
しかし、もう我慢の限界だった。
勇気を振り絞って、口を開く。
「何か帝人、きもい」
帝人は一瞬きょとんとしたが、すぐに苦笑した。
「きもい、って酷いなぁ」
「だって変じゃん」
俺が足を止めると、帝人も止まってくれる。
――…そういうところは、変わらないのにな。
「なあ、言いたいことあるならはっきり言ってくれ。妙な態度を取られる方が、嫌だ…」
そう言いながらも、帝人の顔が見れなくて俯いた。声も徐々に小さくなる。
――駄目だなぁ、俺。
帝人に何を言われるのか。帝人は優しいからきっとやんわりとした表現を使うだろう。それでも、今までのような関係には戻れないのは、確実だ。避けられたり、優しくされたり、昨日から全然日常が戻って来ないのだから。
暫く沈黙が続いたが、やがて帝人は溜め息を吐いた。思わずびくり、と肩が跳ねる。
空気が小さく震え、俺の耳にそれが届いた。

「酷い行動は、同じ“行動”で挽回できると思ったんだけどなぁ」

「え…?」
想像したよりも柔らかい声に、顔を上げる。そこには困ったような表情の帝人がいた。
今日、初めて見る顔。
「言ってもいいの?本当に?」
困ったような不安そうな顔。
帝人も、恐れているのだろうか。そう考えて、新たな疑問が浮かんできた。

――何を怖がっているんだ?

「…ああ」

――俺を拒絶することへの躊躇いか、

「紀田くん、きっと困るよ」

――それとも…、……。

「いいから。ちゃんと聞いておきたい」

帝人の気持ちをちゃんと知りたい。
俺の気持ちが迷惑なら、ちゃんと諦めてみせるから。

いつの間にか震え出していた手をぎゅっと握り締め、帝人の言葉を待った。



そして、帝人はゆっくり、はっきり、その言葉を告げた。





その一言で終止符を

止まることのない想いが、溢れ出した。


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