部屋に入った途端、両方の拳を眼前に突き付けられた。
思わず身構えたが、殴る気の無いことを悟り、体勢を直した。
「…で、急に呼び出して何の用なんすか、臨也さん」
尋ねると、臨也さんは拳を小さく揺らした。
「これだよ、正臣くん」
「は?」
「どっちがいい?」
どうやら、拳のそれぞれに何か入っているらしい。
――…何がしたいんだか。
ちらりと表情を窺っても、にこりと偽善的な笑顔で微笑まれるだけ。
俺は諦めて、右手を指差した。
「じゃあ、こっちで」
「本当にそっちでいいの?」
「……じゃあ聞くな」
臨也さんは「仕方ないなぁ」と言って、右手を差し出した。
「落としたら怒るよ」
「えっ、え…!」
右手の拳が解かれる。慌てて両手で受け止めた。
銀色の鍵が、掌に落ちた。
「これ…」
「合鍵」
「!」
――合鍵なんて、何で…。
受け取っていいものか、それとも何か企みがあるのか。考えを巡らせるが、少しも理解出来なかった。
「本当はこっちを先に選んで欲しかったんだけどね」
すると、臨也さんは俺の腕を取って、左手に隠していたそれも掌に置いた。
今度は銀色の、シンプルな指輪。
驚きで、息を呑んだ。

「正臣くん、結婚しよう」

「いや、無理だろ」
即座に否定する。普通に考えて、あり得ない。俺たちは男同士なんだから。
ちくりと胸が痛んだ。

――何で、痛むんだ。

「無理じゃない。婚姻届なんて、結局は形だよ。どうして同じ人間が営んでいる役所の許可を得る必要がある?一番の証明は個々の判断。結婚式と同じさ。出しても出さなくても、本人たちが結婚したと誓い合ったらそれは虚偽ではなく事実だよ」
「……」
「ね、正臣くん」
臨也さんは、俺の左手の薬指に指輪を通した。
「うん、ぴったり」
楽しそうに、微笑まれる。
「……。いつの間に測ったんですか。怖っ」
「…君、さっきからツンがきつすぎない?」
「…気のせいです」
ぽふっと臨也さんの胸に飛び込んだ。
「デレもありますから」





Marry me


嬉しくて、ちょっぴり泣きそうになったなんて、絶対に言ってやらない。




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