珍しく、一人の休日。僕は駅方面へと向かっていた。
駅付近とは違い閑静な住宅街を歩いていると、向こうから歩いてくる人が一人。その髪の色はよく知ったものだった。
「あ、紀田くん」
紀田くんも僕に気付いたようで、手を振ってくれた。僕も、振り返す。
そして、紀田くんは大きく両手を広げて駆け寄ってきた。
いつもなら、ひらりとかわす彼からの抱擁。しかし今日は、何故かそんな気にはならなかった。

ほんの少しの気紛れ。

僕も両手を広げて、彼を受け入れた。

胸に飛び込んでくる紀田くん。

途端にふわりと届く、優しい香り。

――うわ…。

カァ、と瞬時に全身が暑くなった。

「帝人…?」
紀田くんはもぞりと動こうとする。しかし、確実に赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、更にぎゅっと抱き締めた。
優しい、心地好い香りが、更に鼻腔を擽る。

――何だろ、これ。

どきどきと早まる鼓動。


ずっとこのままでいたい、と思えた。


「み、帝人…」
とん、と胸を押され、流石にこれ以上は誤魔化せないだろうと、紀田くんを解放した。
「何だ、帝人にもついにデレが到来か?ようやく√3点から変動か?いやぁ良い男すぎて困るなぁ、さすが俺!帝人も遂に俺のすごさに気付いたということで今日は一緒にナンパに行こう!」
俯いているものの、いつものように饒舌に話す紀田くん。しかし、耳が赤い。

――ああ、何でだろう。

「ナンパは嫌だな」
「何を言う!今のテンションならきっと成功するに…」
「ねえ、僕ん家来ない?その途中だったんでしょ?」
「え…っ」





気付いてしまった
想い



紀田くんがすごく可愛く見えた。



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