「げっ」
思わず漏れた本音は、余りにも近すぎて雑踏の中でも拾われてしまった。
「やあ。久しぶり」
にこりと優しく微笑む姿は見る者を魅了するほど様になっているけれど、本性を知っている者にとっては安心できるものとは程遠く、不安を煽るものだった。
「お久しぶりです…」
先手を打たれ、逃げることが出来なくなった俺は、諦めて胡散臭い笑顔を向ける男を見た。
「そんなに嫌そうな顔しなくても」
「…してませんよ」
「嘘つきだなぁ、君は」
クスクスと小さく笑みを溢しながら、臨也さんは俺の腕を掴んだ。
「なんすか…?」
「ねぇ、紀田くん。俺とキスしてみない?」
「…は?」
まるで挨拶でもしているかのようにさらりと告げられ、一瞬何を言われたのか理解できなかった。しかし、徐々に近づいてくる顔にようやく理解し、慌てて後退りした。…腕を掴まれているから、意味はないのだけれど。
「は!?いや、つかここ街…っ!」
往来の多い街のど真ん中で、男同士がキス、だなんて。シュールすぎる。絶対嫌だ。
「じゃあ、場所変える?」
「そういう問題じゃ…、わっ!?」
強引に腕を引かれ、路地裏に連れ込まれた。これは本格的にマズイ…?
「ここなら文句ないよね」
とん、と壁に体を押さえつけられる。どう考えても逃げ場はなかった。
「何で…」
キスなんか…と浮かんだ疑問は、口を塞がれたことによって最後まで言わせてもらえなかった。
「ん…っ」
何度も角度を変えて、重ねられる唇。
唐突に始まった口付けは、唐突に終わった。
「はぁ…っ」
荒い呼吸をしながら、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
「うん…」
臨也さんはペロリと唇を舐め、何か考えている素振りを見せた。それが普段より幼く見え、一瞬どきりと心臓が跳ねた。
(違う、違う…)
胸を抑え、自分に言い聞かせる。俺はこの人が大嫌い。絶対好きになんかならない。
…結局はこの人の目に、俺が俺として映ることなどないのだから。
臨也さんはしばらく黙っていたが、やがて考えが纏まったのか、静かに口を開いた。
「紀田くん」
「…なんすか」


「俺は結構、君のことが好きらしい」


楽しそうな口調で告げられたそれは、果たしてどう捉えたらいいのか。


「俺は、大嫌いです」


取り敢えず、本心でもって返した。





Perjury



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