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額に当てられたひんやりとした感触が心地よくて、再び意識は沈んでいこうとする。しかし、思い切ってゆっくりと目を開けた。
「静雄さん…?」
「あ、悪い。起こしたか?」
そう言って静雄さんは手を離そうとするから、慌ててその手を握った。
「紀田…?」
「そんなことないです。それどころか気持ち良かったので…その…」
何とも言い辛くて、フェードアウト気味になる。しかし、静雄さんは分かってくれたようで、微笑んで頷いてくれた。
「分かった」
先程のように、静雄さんの手は再び俺の額に触れた。
「それで…ここは…?」
漸く意識がはっきりしてきて、この場所が自室ではないことに気付いた。見慣れない室内の見慣れないベッドに寝かされている。俺たちはさっきまで公園にいたのではなかったか。
そんな疑問を抱いている俺の状況を理解してくれたのか、静雄さんはあっさりと答えてくれた。
「新羅ん家だ」
「新羅って…、この間会った医者の?」
「ああ」
静雄さんに半殺しにされかけたあの時、俺の手当てをしてくれたのが新羅さんだった。
「お前、日射症で倒れたんだよ」
「え…?」
そこで漸く、自分が公園で意識を失ってしまったのだということを理解する。サァッと一気に血の気が引く。
「このクソ暑ぃ時に、日影ならまだしも日向で1時間も待ってたんならそうなっても仕方ねぇだろ。まあ、軽度らしいから、暫く休んだら大丈夫だとよ」
「す、すみません…」
「あ?」
静雄さんの不思議そうな声に、目を伏せる。とてもじゃないが、今静雄さんの顔を見る勇気はなかった。
「迷惑かけてしまって…。約束だって…」
肝心な時に上手く振る舞えない自分が情けなくて仕方がない。前も、静雄さんのサングラスを割ってしまったし、今回は倒れてしまった。しかも両方とも、新羅さんの家まで運んでくれたのだろう。迷惑ばっかり掛けている気がする。これでは、いくら静雄さんが優しいとはいえ、怒ったり呆れたりするのが当然だ。
静雄さんは深く溜め息を吐いた。その反応に、びくりと肩を震わせる。
しかし、次に告げられた言葉は、予想とは大きく異なっていた。

「何でお前が謝るんだよ」

「え?」
思わず静雄さんを見る。意味が分からない。
静雄さんは気まずそうに頭を掻きながら、再び口を開いた。
「俺が遅かったのもあるだろ。それに待ち合わせだってもっと涼しいとこにしときゃよかった。そこまで気ぃ回んねぇで、悪かった…」
「え、いや、静雄さんのせいじゃ…!」
静雄さんが悪い訳ない。慌てて起き上がり、否定する。しかし、急に起き上がったせいか、再び世界が歪んで見えた。ズキズキと頭が痛み出す。ふらりと傾いたところで、静雄さんが支えてくれた。
「大丈夫か?」
「す、すみません…。でも、静雄さんのせいじゃないですから…!」
「いや、俺が暑いのにも構わず呼び出しまくったから…」
「そんな…っ!謝ることじゃないです!!」

――だって…。

「嬉しかったし!!」

「…紀田?」
「静雄さんとまた出掛けられるって浮かれてた俺が悪いんすよ!浮かれすぎて友人にはウザいって言われたし、前日は楽しみすぎてなかなか眠れなかったし、早く会いたいからって予定時刻より大分早い時間に家出ちゃったし…!静雄さんが来たら直ぐに分かるようにって思って見晴らしのいい日向を選んだのだって俺だし!本当に楽しみで…」
そこまで勢いよく話して、ふと我に返る。もしかして今、ものすごく恥ずかしいことを言ってしまったのでは。
「……」
静雄さんは何も言わない。その沈黙が逆に恐ろしくて、顔を上げることが出来ずにぎゅっと目を瞑った。
「あ、えっと、その…」
何か言わなければ。何を?怒らせた?謝らなきゃ。でもどう言えば。
かなり焦っている頭で必死に言葉を絞り出そうとしていると、大きな溜め息が聞こえてきた。
「す、すいませんでした!」
「あ、いや、謝る必要はねぇ。こっちこそ…悪かった」
「え…」
意外な言葉に顔を上げる。そして、目を見開いた。

――静雄、さん…?

「まあ…、遅れた手前信じてもらえねぇだろうけど、…俺だって楽しみじゃねぇ訳ではなかった」

真っ赤な顔でそう告げた静雄さんに釣られるように、俺の顔も熱くなる。

「そう、ですか…」

そう頷くことしかできなかった。







「ねぇ、セルティ。あの二人は何で他人の家でいちゃつくんだろうねぇ」
『放っておいてやれ』






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amethyst様に捧げます!
恋のはじまりの続編ということで、前回のことに触れつつ書かせていただきました。静正と言いつつまだくっついていない二人です(殴)。ご、ごめんなさい…っ!!気持ち両思いなんですが、まだ伝えあってないというか…!早くゴールインすればいいのに!!←
リクエスト本当にありがとうございました!

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