じりじりと肌を焼く日光が恨めしく思える昼下がりの午後。公園のベンチに座りながら茹だる夏を満喫する。
いつもならクーラーの効いているお店の中に移動するが、今日はそうする訳にもいかない。
約束を取り付けた時のことを思い出し、自然と頬が緩む。端から見たら怪しいことこの上ないだろう。そうは思うけれど、にやけてしまうものは仕方がない。
そわそわと落ち着きなく、何度も携帯で時間を確認していると、不意にその場に影が落ちた。
「悪い、待たせたか」
望んでいた声に顔を上げると、望んでいた人がばつの悪そうな顔で立っていた。
「いえ、そんなに待ってませんよ。お仕事お疲れ様です、静雄さん」
実は1時間前にはこの待ち合わせ場所に着いていたけれど、どれだけ楽しみにしてたんだとバレるのが恥ずかしいので黙っておく。
池袋最強の男と評されるこの人と、普通極まりない男子高校生であるはずの俺が何故待ち合わせをしているのか。そのきっかけは数週間前。俺はこの人に誤解で半殺しにされそうになった。それから静雄さんはあの時のお詫びと称してよく買い物や食事などに誘ってくれるようになったという訳だ。誤解とはいえ此方にも反省すべき点はあったし、あれから結構経っていて、怪我は完治している。自分の分は無理矢理払っているとはいえ、本当は断るべきなのだろう。それでも静雄さんのお誘いを二つ返事で頷いてしまうのは、この数週間で平和島静雄の本当が垣間見られたからだ。もっと知りたい、もっと一緒にいたい、なんて、恋に焦がれる乙女みたいな感情すら生まれてしまっている。

――…って、あれ?

そこまで思いを巡らせて、俺は今更ながら、重大な事実に辿り着いてしまった。
「?どうした?」
「えっ、あ、いえ、何でもないっす!」
慌てて笑って誤魔化す。静雄さんは不思議そうに首を捻っていたが、何も聞かずにいてくれた。
こういう何気ない気遣いだとか、首を捻る動作などが、かっこいいというか、優しいというか、素敵というか、可愛いというか。とにかく言葉が纏まらないほど、俺を虜にしてしまう。

――これってやっぱり…。

「いやいやいやいや、ないって、マジないって!」
「やっぱり、何かあんのか?」
「へっ?あ、い、いや、なな何でもないっすよー、あはははは…」
「……お前」
あ、やばいかも。と思った時には既に遅く、静雄さんは顔をしかめていた。そして、その端正な顔をずいっと俺に近づけた。
身長さのせいで普段合わない視線が同じ高さになり、どきりと心臓が跳ねた。
「静、雄さん…?」
静雄さんの行動が読めず首を傾げていると、ぺたり、と静雄さんの大きな手が頬を包み込んだ。静雄さんの手は随分と冷たくて、気持ちがいい。
(う、わ…っ)
「やっぱ熱いな。お前、本当はここにどれくらいいたんだ?」
この行為にパニック状態になった俺の残念な頭は、つい馬鹿正直に答えてしまった。
「1時間前、です」
「は!?」
答えた途端、静雄さんはポカンとした。あ、その表情も可愛い。しかしそれも一瞬で、直ぐにしかめっ面に戻ると、怒鳴り声を上げた。
「…っ馬鹿かお前は!」
「ふへ…?」
そして俺の頬から手を離し、今度は手を差し出してきた。
「ほら、立てるか?」
「あ、ありがとうございま…っ」
緊張しつつその手を取り、立ち上がった途端、景色がぐにゃりと歪んだ。
「紀田…!?」
急にズキリと頭が傷み出す。その上、体まで力が入らなくなり、ふらりと傾いた。

――あ、やばい。

さっきとは違った意味で、その言葉が頭に響く。何故か冷静にそう思いながらも、体は言うことを聞かない。諦めて目を閉じた。

「紀田…っ」

黒に沈んでいく世界の中で、静雄さんの声だけは、深く響き渡っていた。



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