じめじめとした空気が辺りに漂い、気分までも落ち込ませるような梅雨時。
傘を差していたにも関わらず制服に浮かんだ水滴を手で払っていると、不意にハンカチが差し出された。
「おはよう、帝人」
そう声を掛けながらハンカチを差し出してきたのは可愛い恋人で。ありがたく受け取った。
「おはよう、正臣。ありがとう」
「どういたしまして」
正臣はにこりと笑うと、今度は僕の手から傘を取り、僕が服を拭いている間に傘立てに差しておいてくれた。
「ありゃ、鞄も濡れちゃってんなー」
正臣はそう言い、もう一枚ハンカチを取り出すと、甲斐甲斐しく鞄を拭き始めた。
「傘小さいんじゃね?」
「そんなことないとは思うんだけど…。ほら、今日は風も強いし」
「まあそうだけどさ」
暫くいつものように世間話をしながら濡れた部分を拭いていると、不意に背後から声が掛けられた。
「おはよー、竜ヶ峰くん、紀田さん!」
底抜けに明るい声に正臣と同時に振り返る。そこにはいつも通り矢霧くんと腕を組み、にこにこと幸せそうな笑顔を浮かべている張間さんがいた。
「おはよう、張間さん」
挨拶を返すと、張間さんは笑顔のまま、さらりとごく自然にその言葉を告げた。
「私と誠二には負けるけど、朝からラブラブだね、二人とも!何だか夫婦みたいって思っちゃった!」
「え…」
張間さんはそう言い終えると、何事もなかったかのようにいつも通り矢霧くんに真っ直ぐな笑顔と愛を向け始める。矢霧くんはそれを穏やかな表情で受け止めると、二人は僕らに見向きもせずにその場を後にした。

残されたのは、爆弾を投下されて固まっている僕と正臣。

先に沈黙を破ったのは正臣だった。
「…み、帝人!お前顔赤いぞ!照れちゃって可愛いやつめ!」
「そ、それを言うなら正臣だって真っ赤だよ!」
「いいや、帝人の方が赤いね!いつまでたっても初々しいなぁもう!」
「ま、正臣だってー…」
お互い真っ赤になりながら不毛な会話をしていると、ぽん、と肩を叩かれた。誰かと思い振り返ると、今度は滝口くんの姿が。
「はよ。朝から夫婦喧嘩って、お前ら元気だなあ」
「えっ」
そうしてすたすたと立ち去っていく滝口くん。
再び固まる僕らだったが、今度は復活の早かった正臣が、滝口くんの背中目掛けて声を張り上げた。
「ふ、夫婦喧嘩じゃねえよ!痴話喧嘩だ!」
「!?それじゃあ何のフォローにもなってないよ正臣!?」

じめじめと、憂鬱な気分にさせる梅雨時。

でも、彼女がいるならこんな日も悪くないかなぁ、なんて。





恋時雨


「おはようございます」
「あ、園原さん!おはよう!」
「杏里おはよう!今日もばっちり可愛いな!」
「あ、あの、お二人とも真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「…!?」
「の、ノープロブレムさ!ほら、今日じめじめしててあっついし!」
「…?」



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