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次の日。
ふんわりとしたワンピースに生足という無駄に力を入れた格好をした俺は、早くも不安になりつつあった。
「帝人さんー?」
「もうちょっと待って…」
いや、帝人さん、冷静になって考えてくださいよ!
そう喉元まで出かかったが、慌てて飲み込んだ。
(でも、デートでわざわざネットカフェって…)
此方に振り向きもしない帝人に、こっそりと溜め息を吐く。帝人の家にはネット環境があるんだから、ここまで来てやる必要はないだろうに。彼女とネットを天秤に掛け、ネットが勝利したという図式なのだろうか、これは。
一人でやることもなくぼーっと座っていると、昨日の暗雲が徐々に顔を出してくる。本当に今日はデートなのだろうか。もしかしてデートと思い込んで浮かれていたのは俺だけだったんだろうか。
ふるふる、と頭を軽く横に振って、そんな思考を振り払う。暗くなっちゃ駄目だ、明るく明るく。
マイナス思考に囚われないように、再び帝人に声を掛けようとした。
「みか…」
「よしっ!」
すると、今まで画面に集中していた帝人は急に立ち上がった。
「あれ、もういいの?」
「うん、終わった。待たせてごめんね」

ぎゅ。

――…へ?

「じゃ、行こっか」
「え、あ、ああ…っ」
慌てて機械のようにこくこくと頷き、立ち上がった。

本当に、自然な流れだった。

それが嬉しすぎて、抑えきれずににやける顔を俯いて隠した。

右手に温もりを感じる。

――初めて、帝人から手を繋がれた…。

いつもと何だか違う様子の帝人を不思議に思いながらも、繋がれた手の温もりを思う存分堪能した。





帝人に引っ張られ、辿り着いたのは、見覚えのある硝子張りの店舗だった。
「ここ…」
「最近出来たお店らしくって、今人気なんだって」
帝人は俺の手を握ったまま、店舗へと足を踏み入れて行った。そして、その一角で足を止めた。
「…!」
「正臣に選んでもらおうと思って」
照れ臭そうに笑う帝人が示すのは、指輪。
前に見たカップルが店先で互いに交換していたものだった。
「なん、で…」
「こういう時じゃないと、上手く伝えられないと思ったから」
既に真っ赤になっている帝人の顔を見て、漸く理解した。

――帝人、覚えてた…。

――好きの意味、俺とおんなじだった。

「正、臣…?」
不思議そうに首を傾げる帝人に、譫言のように言葉を紡いだ。
「だって…、手も繋いでくれなかったし、…キスもしてくれないし…、付き合ってるって思ってんの、俺だけかなって…」
「え…」
店の中だと言うのに、安心しすぎたせいか涙腺が緩んだ。慌てて目を擦り、笑った。
「でも良かった…。ありがとう…」
「…うん。ごめんね」
擦っていた手をぎゅっと両手で握られた。
「ずっと、信じられなくて。僕もずっと好きだったから」
「え…」
「何だか照れ臭くて。正臣の行動の一つ一つにドキドキして、でもそんなの恥ずかしいから知られたくなくて。今日だって本当は真っ直ぐここに来るつもりだったのに、緊張しちゃってなかなか決心つかなくて…」
「……」
ひんやりとした感触が、指を伝う。
「正臣、好きだよ。これからもずっと、僕の隣にいて欲しい」
握られていた手を離される。その左手の薬指には、きらきらと銀色に輝く、約束の証。

「お誕生日、おめでとう」

もう想いは止められなくて、返事の代わりに帝人に抱き着いた。







愛を誓いましょう。



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