店先に、頬をほんのり染めながら嬉しそうに笑っている女の子と、照れ臭そうに頬を掻きながら、そんな女の子の手を取っている男の子がいた。
何だか幸せそうで、ほんのちょっぴり羨ましく思えた。





「正臣、何か欲しいものある?」
帝人にそう聞かれた時、真っ先に思い浮かんだのは、いつか見たあの可愛らしいカップルだった。でも、そんな事を望めるはずも無く、直ぐに思考を打ち消して別の答えを口にした。
「胸」
「…っ!?」
帝人は瞬時に顔を真っ赤に染め上げると、拗ねたように口を開いた。
「そういう事言わないでって言ってるのに…!」
「だって本当のことだし」
ちらりとコンプレックスの一つである控え目な胸に目を落とす。
「杏里ほどとは言わない。けれどせめてBからは脱却したい!大きくなったら帝人に触らせてやることを公約に掲げますのでどうにかなりませんかね!!」
「知らないよ、そんな事…」
帝人に呆れたように溜め息を吐かれながら、以前カップルを見掛けた店の前を通る。
「欲しいもの、ねぇ…」
ほんの一瞬だけちらりと一瞥し、直ぐに帝人の方を向いた。
「今はあんまり思い付かないな。敢えて挙げるなら胸か帝人か」
「僕は胸と同レベルなの…?」
「安心しろ、帝人!胸には幸せがいっぱい詰まっているんだ!」
「あはは、正臣うるさい」
「酷っ!」
いつものように鋭い突っ込みを聞きながら、ぼんやりと道行く人に視線を送る。

――欲しいもの、かぁ。

一番に思い付いたものではなかったものの、帝人も胸も、欲しいものだ。嘘ではない。
胸が大きくて女らしかったら、帝人をもっとどきどきさせられるかもしれない。一番に思い付いたものだって、最終的には帝人に繋がる。結局、俺の欲しいものは一つだった。

――どんだけ帝人が欲しいんだ、俺。

心の中で自嘲する。

――でも、やっぱり欲しい。

端から見れば異性の友達のようではあるが、俺と帝人は一応付き合っている、はずだ。帝人の“好き”を俺が勘違いしたのでなければ。
長年の想いを告白して、帝人もそれを受け入れてくれた。だから多分、付き合っている、のだろう。
何故こんなにも歯切れが悪いのかと言うと、この関係が始まり二週間が経つのに、キスはおろか手を繋ぐ事さえないからだ。一応俺からふざけた様子を装って抱き着いたり腕を組んでみたりと努力はしているが、帝人から手を出してくることはない。本当に、全く、悲しいほどに、ない。そんな調子だから、キスなんて論外だ。
恋愛経験は多い方だと自負するこの俺が、二週間も経っているのにこんなにも健全過ぎるお付き合いをしているのはもはや異常だ。いや、世間一般から見ても異常だろう。せめて手は繋ぎたい。

それでも、付き合っていると思っているのは俺だけなんじゃ、というもしもが拭い切れないから、何も出来ない。何も言えない。

――このままの関係を続ける方が、幸せなのかな。

「正臣。正臣ってば!」
強く名前を呼ばれ、はっと我に返った。帝人は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫?体調悪い?」
「ん、平気。悪ィ悪ィ、ぼーっとしてた」
やっぱり怖くて聞けないから、いつものように笑って誤魔化す。
「ならいいんだけど…。ところで、正臣って明日用事ある?」
「え、ないけど…」
しかし次の一言で、今まで考えていた不安は全て吹き飛んだ。

「じゃあ明日、一緒に出掛けない?」



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