「静雄さん!」
跳ねているような明るい声に、立ち止まって振り返る。人混みの向こうに予想通りの姿が見えた。
来良学園の制服を纏った少年は上手く雑踏を避け、俺の元へと駆け寄って来た。
「こ、こんにちは!」
少し荒れた息を整えながら、底抜けに明るい笑顔を見せられる。こっちも思わず微笑んでしまうくらいに無邪気だった。
「学校帰りか?」
「はい。静雄さんは?」
「今から仕事だ」
「あ、呼び止めちゃってすいません!」
申し訳なさそうに頭を下げる紀田に、隣にいたトムさんが答えた。
「あー、いいって。むしろ声掛けてくれた方が、静雄の機嫌が良くなるから」
「な…っ」
「え…?」
それを聞いた紀田は一瞬にして真っ赤になった。釣られて俺も顔が熱くなる。それを誤魔化すように、可愛い反応をするこいつの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「あー…、じゃあな」
「は、はい!お仕事頑張ってくださいね!」
照れたのか、こっちが動く前に、紀田の方が先にUターンし、走り去って行った。まるで嵐みたいなやつだな、なんて思いながら、トムさんに声を掛けようとしたら、先にトムさんが口を開いた。
「何か、犬みたいだな」
「あいつっすか?…そうっすね」
随分となついた少年を思い出し、思わず小さく笑う。
すると、トムさんは思いもよらない言葉を落とした。
「いや、確かにあいつも犬みたいだけど…、俺が言ってんのはお前のことだよ」
「は…?」

「こんな騒がしい場所でもあいつの声を拾えんのは、何か忠犬みたいだなって」

「……」
「し、静雄?」
動揺しすぎて思わずそこら辺のガードレールをへこませてしまったのは、言うまでもないだろう。









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