第二夜
マジシャンとしてこのバーで働かせて貰えるようになって二年、大学に入って二年。白き
父の白を纏った怪盗を止めて、3年。
俺はほぼ毎週のようにこのバーに来ては、夜の9時から30分のショーを1時間置きに、内容を変えてやっている。
ここのマスターの伊藤さんは、親父の同級生で、俺の腕を見込んで仕事をくれた人だ。
そうして俺は、今夜もこのバーで大勢の観客を前にショーを開く。
KIDの頃のような高揚感に似たものを感じながら、次々とマジックを繰り出す。
「では、この箱には俺の相棒のエリザベスに入って頂きます…、っ!」
そう言って、何時ぞやにあの小さな名探偵に怪我を治して貰った鳩を入れる。
そして何気なく、会場を見渡した。そこで見つけたのは、射抜くような蒼い眼差し。
いや、今は射抜くような鋭さはないものの、かつての其れを彷彿とさせる蒼さ。
まさかとは思ったのだが、すぐに確信して思わずポーカーフェイスを忘れて目を見開いた。
如何してここに、そう思わない訳でもなかったが、今はショーの最中、集中しなければと思い直し、
なんとかそのままノーミスで30分間のショーを乗り切った。まあ、一番のミスといえば、思わず驚いてしまった事か。
ステージを降りると燕尾服のまま、バーのカウンターに座る名探偵の横に座って、マスターカフェオレ、と注文をつけた。名探偵に目を向ければ酷く驚いた顔をしている。
何時もは声を掛けてくれる女の子達と談笑するのが日常なのだが、今はそんな場合ではない。
何せ一番会いたいと思っていた想い人が同じ会場にいるのだ。
「初めまして、俺黒羽快斗。あんたあの名探偵の工藤新一だよな?さっき俺のショー見ててくれたっしょ?」
俺が目を合わせると、すぐに反らされる。なんだか目が泳いでいる。
「あ、あぁ…まぁ…その、良かったぜ」
しどろもどろ、といった風に出た感想にも、素直に褒めてくれたのが嬉しくってへらりと笑った。
「なぁなぁ、ここで会ったのも何かの縁だし、番号交換しねぇ?」
俺が携帯を取り出し赤外線あるか?なんて携帯から相手へ視線を戻すと、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。
「…もしかして男に番号聞かれんのキモい?」
「えあっ、ちが、え、えっと赤外線な…!お、送るから!」
はっと我に返った名探偵は、素早く携帯を出してたどたどしく赤外線にする。
なんだか勢いのついた相手に思わず押されてしまって、「あ、あぁ」なんて微妙な返事をしながら受信する。
「じゃあ、番号とアドレス、送るな?」
赤外線でやってきた電話番号とメールアドレスに、内心ガッツポーズをしつつ、馴れた手つきで必要な内容をメールに入力して送る。
目的を遂げて怪盗KIDを止めた今、黒羽快斗として工藤新一と接触したい。
あわよくば親友の座をGETしたい。いや、というよりは恋人になりたい。
そう思っていただけに頬が緩む。まあ必死に止めてるけど。
「あ、来た…っと、その、何て呼べばいい?」
なんて上目遣いを使ってくる相手に、思わず真顔で鼻血を出すかと思った。それくらいの破壊力…さすがは名探偵。
「あぁ、普通に快斗でいいぜ?俺も新一って呼ぶから」
にこ!と笑うと、おう、と短い返事が返ってきた。
先ほどの疑問の答えが知りたくて、「でも何でまたこんな所に?」と聞くと、何でも知り合いの父親がマスターで、そのマスターに招待を受けたから、だそうだ。
気さくな伊藤マスターの事だ。確かに息子のサークル一同くらい、軽く招待しそう。
「っていうか、新一どこの大学行ってんの?」
「東都大の工学部」
「へー、さすがだな!あんな有名なガッコー」
「えっと…快斗は何処行ってんだ?」
「早田大の経済学部。東都も視野に入ってたんだけど、こっちでやりたい事があってな」
マスターの入れてくれる甘くて美味しいカフェオレを飲みながら、お互いに頭良いんだな、と笑いつつ談笑を楽しむ。
ああ、やばい、名探偵と話すのってやっぱ楽しい。
しかし、楽しい時間なら尚更流れる時間は早かった。
「うわ、わり、俺もういかねえと…今日は母さん達が真夜中に帰ってくるらしいんだ。」
「あ、そうなの?名残惜しいけどそれならしゃあねぇなー。また話そうぜ、新一」
おう、と笑みを向けてくれる新一に、打ち解けられた事に喜びを感じつつ、マスターにご馳走様、とお金を払い去って行く礼儀正しいこの探偵を見送る。
「おい」
ふいにマスターに声を掛けられて、振り返る。
するとにやり、と意地悪く笑う伊藤さんが視界に移った。
「黒羽、お前工藤くんの事好きだろ」
「はっ!?」
にんまりとした口元が動いて、そういった。予想だにしなかった台詞に、思わず間抜けな声が出る程驚いた。
マスターにバレるなんて。こちらとしてはポーカーフェイスには人並みならぬ自信があったのに…。
「…そんなにわかりやすいですか?」
「いや、他の人から見たらわかんねぇだろうけど、お前が自ら話しかける所、初めて見たからな」
なるほど、表情じゃなくて行動観察って訳ね…ほんと、この人には敵わない。
「やぁ、実はそうなんですよ…、結構前から好きだったんです。今日が初対面なんですけど」
なんて言いながら俺は苦笑を漏らして、諦めた訳ではなかったんだけど、なんて一人言い訳をする。
やっぱり名探偵は名探偵のままだったし、なんてよくわからない事を思いながらちらりと相手が消えた方向を見やる。
そうするとハンカチをビニール袋に入れた男が更衣室に入っていく。
しばらく見ていると、そこから只今掃除中の立て札が出てくる。
今の男が掃除をする様には見えなかったけど、っていうかむしろ何でビニールに入れたハンカチを持ってるんだ?
なんて思いながらも、俺はマスターにカフェオレのおかわりを頼んだ。
***
次回はちょっちR予定。
もにゃもにゃ…内容あたためなう
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[mokuji]
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