誕生日ジレンマ 前/快→新









「おはよー」

「おう」

1限目、開始スレスレに講義室についた俺は、大学で知り合ったやつらと話す新一に一番に声をかける。
短い返事にやや切なくなりつつ、いつか新一が言っていた「なんか快斗っていじめたくなるんだよなー」というなんともため息の出そうになる台詞を思い出す。
どうやら笑いを狙ってバカやってるうちに"からかい甲斐のある奴"認定をされたらしい。


「新一、ハグしてハグー」

「はぁ?きめえこっちくんな」

「冷てえ!まじ涙でるわー」

「……」



こんな冷遇されてますが一応俺は今日で19歳。祝ってくれるやつは0。まあ、言ってないから当たり前なんだけど。
むしろ今朝母さんに「ハッピーバースデー快斗!今夜はあんたの好きな物作ってあげるから言ってみなさい!」と、意気揚々と言われて思い出したくらいには陰が薄かった。

その一番の理由はやはり、今から丁度一年前になるだろうか。
父の代から追い続けたパンドラを破壊し組織と無事に決着がついた時、俺は気づけばもう18回目の誕生日を迎えていた。
ふと足元の深い暗闇をそっと覗き見れば、最後まで自身と死闘を繰り広げた、しかし今は無残なスネークの姿。
「終わった」という実感は薄かった。いっそまだどこかにパンドラは存在して、自分はまだこれからも『怪盗KID』を続けていくような気すらしていた。
18歳になったという実感もほぼ無く、18をすっとばして17から19になったかのようだった。

その年の9月、俺と同時期に決着を付けていた名探偵と再会した。
再開したといっても、俺にはもう空を飛ぶ為の白いそれを燃やしてしまっていたから、"黒羽快斗"としてだ。
俺の学校の文化祭に名探偵が毛利蘭、鈴木園子と来たのがきっかけ。

復活を遂げてからの名探偵は表立ってメディアに出る事が無かったので、動く"工藤新一"を見たのは初めてだった。
しかし、"江戸川コナン"であった頃と比べても何ら変わりの無い、綺麗な瞳をしていた。
安心した。ああ良かった、名探偵もまた普通の生活に戻れたのだ、と思った。
ただ純粋にそう思った俺はすぐに立ち去ろうとしたが、鈴木園子に声を掛けらた。そこからは見事に謎の展開だ。
鈴木園子の情報網は恐ろしかった。俺がマジシャンの卵である事を知っていて―…、まあお察しの通り、マジックショーのお披露目会だ。
文化祭特有執事メイド喫茶でのちょっとしたショーになったそれは、結果として名探偵と奇妙な友人関係を構築した。

学校外で初めて出会った時には後ろから抱きつくと、本気で嫌がられて割りと本気で傷ついたもんだ。
正直そういう触れ合いは友人間では当たり前で、それをまた名探偵に嫌がられたもんだから結構心臓にザクッとキた。
とりあえず接触が嫌、ということは頭に叩きこんだ。


年が明けると、俺はセンターで東都大学を受験。合格して、春からは東都大生となった。
そしてそこのクラスわけで出会ったのが、工藤新一。
同じ大学に同じ学科に同じクラスに同じ班。そして今に至る、という訳だ。

しかしまあ、最近の悩みというのが、だ。






「今日はまた一段とむっつりしてるなぁ、快斗?」

「…だってむかつく」

よいしょ、と隣に座ってきたのは真田貴大。大学で知り合った奴だが、めずらしく話が合う奴…というか、結構中身が似ていて気が合う奴だ。


「まー工藤はモテるからなぁ」

そういって真田がちらっと見た先には、最近仲良くなった女子と楽しげに話す新一の姿。今日の講義はあちらで受けるようだ。大学生活始まって以来初の出来事だ。
自分もそちらに視線をやるが、すぐに後悔して前に向き直りため息を吐く。

「あー…、構って欲しい…」

「はは、快斗はいつも雑に扱われてるからなぁ。工藤、俺らにはフツーやのに。」

けらけらと可笑しそうに笑う真田に、ややムッとする。

「うっせー。つかなんで俺が寝てるとこ起こしたら超不機嫌でキレんのにあいつはいいんだよ」

「まあまあ、そう興奮すな。でもまあ確かに工藤は快斗に対してだけ意地悪やなぁ」

「そーなんだよ…。…はぁあぁ…」

俺が深いため息を吐くと真田はよしよし、と俺の肩をぽんぽん叩いた。
その手にやや癒されつつ、新一もこんな風に俺に甘くしてくれたらどんなにいいか、と無駄な思考に走る。

また気になってちらりと後ろを見れば、楽しげに隣の席の女子と話す姿。

そしてまた、深いため息。

「お前今日こんなんばっかやなあー」

呆れる真田をよそに、俺は不貞寝をする事にした。こんな嫉妬心ばっかの俺じゃあ、「めんどくさ」と新一にあしらわれるに違い無かった。










「今日の講義はこれまで、レポートは来週提出なー」


間延びした教師の声に、意識を浮上させる。
レポートのプリントがいつのまにか置いてあって、それを拾いあげてぼんやり眺める。
そうしていると、真田がこそりと話しかけてきた。

「なぁなぁ、昼飯このままここで食うやろ?工藤戻ってくるやろか」

「いや、ぜってーこねぇ。どうせあのままあそこで食うんだろ」

寝てみたら直るかと思っていたやさぐれも、全く変わっていない事に自分自身少し呆れる。
しかしどうももやもやして、イライラしてしまってダメなのだ。

「絶対こない、なぁ…」

真田が意味深につぶやくので、ふと視線をあげると、「ただいまーっ」と上機嫌な新一の声。
後ろめたさから顔が見れなくて、つい視線をそらす。目があったら汚い嫉妬心を見透かされそうで。
まあ新一には他の連れが返事したから、不自然じゃないだろう。そう思って新一とは反対を見ると、

「…うれしいんだろ?」

にやにや、と笑う真田。少しの図星をつかれて面白くないのでやや顔をしかめつつ、「ふくざつ」と答える。
そうだ、複雑なんだ。戻って来た事は嬉しい。でもその弾んだ声は、あの女のおかげ。



最初の頃は、いつも新一の隣に座ってた。
一番近くにいて、冷たくあしらわれたり手酷くからかわれ、時々「わりー言い過ぎたって」とふざけて笑う、結局は自分に甘い新一の隣に満足してた。下手にやさしいより、他の奴らと違う扱いに優越感すら感じていた。
でも最近じゃあ冷たくされる事に耐えられなくて居心地のいい真田の隣に逃げるようになった。表ではドMを装っても、結局はなり切れない。
我ながら女々しいな、なんて思うけれど、どうしようもないイラつきに支配されてしまって。




「…あー、やっぱ俺、ドMになりてえ」

「え、何でまた急に?」


4限が終わり、鞄にファイルを詰め込みながらそうつぶやくと、当たり前のように真田が返しをくれた。
こういうのがどうも最近足りなくて。新一もそうしてくれたら、なんてまたアホな事を考える。新一ならここはきっと「はぁ?」といって大層怪訝そうな顔を向けてくるのだろう。

「ドMみたいに打たれ強くなりたいわー…。くじけそう」

「ぶは、快斗がドMとか、いつも通りすぎて!」

「オイいつ俺がドMになったよ!」

そうしてぎゃいぎゃいしていると、新一ががたりと席を立つ。

「わり、警部から呼び出しが!先にいくわ、お疲れっ!」

ここに来て初めて、今日ほとんど新一と話してない事に気づいた。
そう思ったとたん、つい名前を呼ぶ。そして、「新一!愛してるよー!」と勤めて軽く言うと、「きめえ!」との一言。撃沈。
隣で真田が「うっ…事情を知っているだけに切ないわぁ…!」と同情してくれている。
俺はいい友達を持った、と薄く笑いつつ「オレハメゲマセン…」と宣言しておいた。


とりあえず名探偵に好意を持つ奴全滅すればいい、と思う俺は多分新一の事が好きなんだろう。…そういう意味で。









※最近相方が余りにつれなくてイジイジしてる豆分の実話がまじっております。
実話といっても恋愛感情とかではなく友人関係であって豆分は全くのノーマル型なので大丈夫ですよ!(何が)
そろそろめげそう・゚・(つД`)・゚・いじけなうだけど、ご褒美一個とかでコロリとしてしまう単純な私乙w「まじペットwww」と言われry
さびしーねー。かまってホシス。しかしそれ言ったら絶対「めんどくせー」っていうだろうよwwwちくしょうw
でも快新変換したら美味いんじゃね?から始まったお話ですたい_(:3 」∠)_
つかぜんぜん新一でてないわらたwww次はちゃんとでるよ!

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