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なぁ、お前ってどうしていつもそうなんだ?



嘘ばっかり 1412hit記念




「今晩は、毎回こうして貴方に追いかけて頂けて光栄ですよ、名探偵?」

そうして毎度のごとく俺の前に降り立った白い怪盗。
そして毎度のごとく白い怪盗を追いかける俺。
こいつの白は道化の白だ。
何色にも染める事の出来る筈の白だけど、このコソ泥の場合は別。

「うっせ、お前は俺が捕まえるって言っただろーが」

こいつの白は嘘みたいに硬くで頑丈で、染めようとした者をするりと通り抜けていく。
まるで強い意志が形になったみたいだった。己を真っ白く、塗り固めようとして、

「おーおー、威勢の好い事。ま、捕まる気は毛頭ねぇけど」

ほら、宝石は返すぜ、と輝く宝石は放物線を描いてこちらに渡る。
それを受け取ってハンカチに包み、ポケットに無造作につっこんだ。
それから前にいる怪盗へと視線を移す。
逆光で表情こそ見えなかったが、すぐにわかった。
俺を見るその視線が熱すぎて。

「お前、」

「んじゃ、俺は仕事も終わったし、帰るとするぜ」

言葉を掛けようと思ったら、遮られて、挙句の果てにはじゃぁなあ、という言葉を聞いたかと思えばそこにはもうあいつの姿は無かった。


なぁ、お前はいつもそうやって俺に熱を伝えてくる癖に、
どうして俺からの熱は受け取ってはくれないんだろうな。
まるで俺が垂らした絵の具を、片っ端から硬い白で薄められているようで。

目を細めてあいつの飛び立った先をフェンスごしに見つめても、白い翼はどこにもなかった。
隙もない。俺にはお前の何処にもつけいらせてはくれないのだろうか。


フェンスを掴めば、かしゃりという音と、手の平に伝わる冷たさがいやに残った。


「バ怪盗…」





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最近名探偵の事を避けている。
名探偵の事を、と言うと少々語弊がある。
正しくは名探偵の言葉を、だ。彼から出る言葉を聞いたらなんだか色々な物が崩れて終わる気がして。
好きという気持ちはさすがに隠せそうもない、というのも、近付きたくて仕方ないからだ。

なんて考えながら飛行していたら、俺を狙っていたらしい奴らに隙を付かれて肩を撃ち抜かれた。恐らく正体は親父を殺した゛奴ら゛だ。
普段なら避けられたそれを回避できなかったのは、俺が単に思考の海に浸っていたからだ。
名探偵の事になると調子が狂ってしまう。情けない。

それより早く奴らの射的範囲から逃れなければ、と思いわざと落ちるように地上めがけて降り立った。


ハンググライダーには重しをつけて、もっと離れた所まで落下して貰った。
俺はその軌道から離れたマンションの屋上でタンクに寄りかかりながら、肩に止血を施す。
打たれてからはずっと肩に有る限りの布を当てていたお陰で、DNA鑑定という最悪の事態は回避出来ただろう、そこまで思考が至ってやっと、ふぅ、と深いため息を吐き出し、力を抜いた。

その時、ガチャリ、というドアが開く音に思わず舌打ちをして、気配を掻き消す。


「っ…、居た…!」


…どうやらこの名探偵には無駄だったようだが。



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