第四夜


「ねえ工藤くんレポートやった?」

「ああ、うん、やった。」

「わお、さっすがー。私まだやってないんだよねぇ」

となりに座っている池本が、楽しそうに話すのをぼんやりと眺める。
こいつは人懐っこくて、でも本当は結構簡単な事で悩んだりするような奴。
伊藤の事が好きで、俺は時々相談にのるのだ。
「あいつは恋愛に関してはうといから、ちゃんといわないとわかってくれないぞ」と。
そうすると池本は笑っていうのだ。「工藤くんも人のこと言えないんじゃない?」と。
そして、工藤くんの恋愛の相談なら、いつでものるからね、と。

「にしても、昨日の黒羽快斗さん、かっこよかったなぁ…本気で鞍替えしようかと思うよー」

「えっ」

思わず表情を堅くした俺に、池本はきょとん、とする。
しまった、顔に出た。それぐらい動揺してる事に自分でもわかる。
口元を覆って顔をそらすと、池本がフーン、といやな笑みを浮かべながらこちらを見つめてくるのがわかる。

「…んだよ…」

「へえ、まさか工藤くんが男の子を好きになるとは…いや!いいの、可愛いから問題ないとおもう!」「は、はぁ…?」

うんうん、と一人納得したように頷き、予想もしなかった言葉を放つ池本に、俺はおもわずあんぐりと口を開ける。

「お前、本気でいってんの…?」

「うん、応援してる。好きなんでしょ?」

「…う…」

反論できない自分の口を疎ましく思いつつ、素直に頷いて置く事にした。
するとやはり池本はにんまり顔で、俺を見る。

「知ってた?文化祭に、黒羽くんマジックショーにゲストで来るんだよ?」

きっと女の子達にもてもてだねぇ、なんていいながら、どうする探偵さん!なんて。
嘘だろ、まじかよ。絶対女の子に囲まれるに決まってる。
あんなショーを、文化祭でやるだなんて。






俺はあの後(詳しくは言いたくない)、キザな怪盗もとい快斗に、うざいほどに愛を囁かれて、こっぱずかしくなって逃げた。
そりゃあもう、物凄いスピードで。
車の中に田村が寝ているのを見て、一瞬表情が強張るのだが、伊藤に
「こいつ飲みすぎるとバカになってから倒れるんだよ、しかも翌日記憶ないとか、ほんとタチ悪いよな」
と言われ、ああそうか昨日のアレは酔っ払っての出来事か、と解決できてしまった。まぁ、用心するに越した事はないのだが、忘れてくれ

るならそれでいい。
そうしてそのまま痛む足腰をなんとか奮い立たせ、自宅まで帰った訳なのだが。
帰って布団にもぐったら、なんだか思い出してしまって。
忘れようと必死に意識している自分を押さえ込み、寝た。
そして朝起きて、レポートをやってない事に気づき猛スピードで終わらせたのだ。

そして今に至る。あ、そういえば俺朝起きてから今まで携帯開いてねえ。
そう思って携帯を取り開くと、メールが三通。

一通は目暮警部から、俺が先日特定した犯人の処遇の内容。
もう一通は母親から、定期的にくるメール。
そして三通目は、あいつから。


黒羽快斗
sb:(non title)
--------------
今日、新一の家行きたい
行って良い?


その内容を見て、思わず携帯をばん、と閉じて足の上に置く。

「どうしたの工藤くん、顔、赤いけど…」

わかってるよ、ちくしょう。自覚してるんだから言うな。
ああ、もう、なんなんだよ。
あっという間に俺の日常に入ってきやがった。こいつ。

一つため息を吐いて、冷静になって返事を打つ。(もちろん池本には見えないように、だ)

「…(別に、いいけど、っと…)」

送信、とボタンを押してから、気づく。これじゃそっけなさすぎただろうか。
でもかといって、何か変な発言を付け足してややこしくなるは好きじゃない。

「(…黒羽快斗が、家にくる…)」

なんだか騒々しくなりそうだ。いつもは俺が本を読むのに適した静かな空間だが、(博士が実験を失敗させた時の爆発音がなければ)
あいつが来るのだと思うと、なんだか本当に賑やかそうで、楽しそうで。
でも、何より緊張というかなんというか。だって好きな奴がくるのだ、家に。
自分で言ってて恥ずかしい気もするが…。あ、やばい、なんか家ちらかってた気がする。

そうやって俺は、講義もロクに聴かずに放課後までああだこうだ考え続けたのであった。










「ピンポーン」

午後三時、予告通り奴はやってきた。なんて言い方は変か。
扉を開けると、目の前には黒羽快斗が目を細めて笑っている。

「!…いらっ、しゃい…」
「ん、お邪魔します…」

ぎゅう、と玄関先で抱き締められる。後ろ手で扉を閉めているあたり、やはり器用というかなんというか。

「新一、顔赤いよ」

「!うっせえ…!」

可愛いなあ、なんて笑われてしまって、思わず相手の身体をぐいぐい押して睨む。
それでもけらけら笑うので、キリがないと思いリビングに相手を呼んだ。

「で?何の用だよ」

ぼすり、とソファに座ると、正面に座ると思われた相手は予想に反してとなりに座った。

「用という用はないんだけど、あるといえばあるかな」

「んだよ、回りくどいな…」

用がないと来ちゃ駄目なのか、なんて顔に書いてあるが、無視をする。

「新一を襲ったのって、一緒の大学の奴だろ?まだ新一の近くにいるみたいだけど、どういうこと?」

「…あー…それは、その…あいつ酔っ払ってたみたいで、記憶もないみたいなんだ、」

眉間に皺を寄せて怖い顔で迫る相手に、思わず困ってしまって頬をぽり、と掻く。
居心地が悪いにも程がある。まさか怪盗に探偵が尋問されるなんて。

「あいつ、絶対新一の事好きだよ。絶対また襲われる」

「んな事ねぇって…確かにあいつはバイだけど、それだけだ…ってか、近い、離れろ」

「…やだ」

やだって、子供かよ、と思いながらもソファに押し倒されてしまう。
なんとか足をつっかえ棒のごとくの役割をさせている訳だが、これも時間の問題。

「…だって、媚薬持ってただろ、どう考えても計画的犯行だ」

「…、…」

相手の言う事は正しい。論破される。

「…でも、あいつらには、こんなこと、言えない…」

そうだ、伊藤や池本、松本は田村の事を信じてる。だから、言えない。
田村が俺を襲ったのだって、きっと何かの間違いだったんだ。だから、言えない。無理だ。
そう思って、俺は、目の前の快斗から目をそらす。
視界の端であいつの口が動く。

「…じゃあ、その輪に俺もまぜてよ」

「はっ…?」

「俺が、新一を守るよ」

いや、お前違う学校じゃねぇか、っていおうとしたのだが、重なってきた相手の唇によって声になる事はなかった。

そんな真剣で、心配そうな目でみられたら、拒否出来るわけが無い。



***
はいはいめろめろめろめろ。快斗くんはもう恋人だと思ってますが、新一くんはまだ思ってません。
だって返事かえしてないしね!恥ずかしいしね!ニヤニヤ…

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