頂き物 | ナノ
金曜ロードショーで観た彼をもう一度拝みたくて友人のジムまでやって来た。ちなみに友人は猫の恩返し派らしいがそれはどうでもいい。



『デンジくんはアホだとは思っていたけどほんと懲りないよね』


『うるせえ』



真っ暗闇にうっすらと発光するのはデンジくんの明るい金髪で、そう言えばこの間もっと白っぽく脱色したいなんてアホなことをほざいていたんで、禿げるよオッサンと冗談めかしてみたら冗談抜きの拳が私の脳天にぶちこまれた。デンジくんは女の子に口よりも早く手を出す最低ヤロウだ。



『あだっ!』


『なんか今失礼なこと考えただろ』


『考えてないよ!デンジくんのヤリチン!』


『意味不明』



カチャカチャとその辺のコードや何やらを引っ張り出して弄くるデンジくんの眉間のシワは物凄く寄っていて、自分のせいで生じたミスなのに八つ当たりするくらい苛々しているらしい。とんだはた迷惑だ。被害者は明らかに私だというのに。



『わざわざジムにDVDなんか借りにこなきゃ良かった…』


『最初にハウル観たいって言ったのは誰だ』


『私だけどまさか停電するなんてハウルだって分からなかった結末だよ』


『落ちちまったものは仕方ないだろ』


『誰のせいだ』


『俺』


『サイ…』


『とおまえ』


『テーだなあんた!』



鼻で笑い私を小馬鹿にしてデンジくんが再び機械とにらめっこし始めた。私みたいなド素人が下手に弄ればますます悪化することぐらいは分かるので、デンジくんの後ろで大人しく体育座りをする。
ああ、しかしこうも暗いと眠くなるな…。



『デンジくんデンジくん』


『……………』


『無視すんな』


『今、忙しい』


『うん、だから声かけた』


『マイナスドライバーでほじくられたいか』


『すんません』



何を?とは聞かずに早々と謝る私は利口だ。だって暇なんだも〜ん。
生憎デンジくんのポケモンも私のポケモンも控え室に置いてきてしまったし、そもそも此処じゃ対した身動きも儘ならないし。デンジくんのように夜目に長けているわけではないから暇潰しに枝毛を探すこともできない。しかもこんな不安定な位置で眠ってしまえば寝相の悪い私は歯車と歯車の間にまっ逆さまだろう。
そうしてふと沸き上がったのは暇から生まれた小さな好奇心と悪戯心。夢中になっているデンジくんの元へ寄るのは容易かった。
そのままそうっとデンジくんの耳に唇をゆっくりゆっくり近付け………。


仕掛けを止めただだっ広いだけのナギサジムにそれはもう女子みたいな甲高い悲鳴が上がった。



『ワーオ、デンジくんの性感帯は耳だったとは知らなかったやあ』


『…………おまえ』


『構ってくれないデンジくんが悪いんだーっ』


『…………上等だ、覚悟しろ』


『…お?』



冷や汗ひとつ流す前に今度は私の悲鳴がジム内を響き渡った。



『…デンジくんの変態め』


『フン』



ようやく起動した機械から私を抱えてデンジくんが澄まし顔でひらりと軽やかに降りる。やられたら三十倍返しを掲げるデンジくんの大人げなさに私の膝がぶるぶると笑う。腰が抜けるかと思った。



『…コチョコチョなんて反則だバカデンジ!』


『呼び捨てにすんな馬鹿』


『馬鹿って言ったやつが馬鹿なんだよバーカ!』


『うるせー三倍バーカ!』



ぎゃあぎゃあ騒ぎながらもハウルを拝むべく二人で控え室に足を進めるのだから、ジムトレーナーさん方の生温い微笑みは受け流しておこう。
とある日常から。



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BACKのグラタンから頂きました!!ふおおデンジかっこいい……!三倍バカにもときめきました(笑)それでは素晴らしい作品ありがとうございました!
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