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 迫る危機にアポロは一気に覚醒した。
 カチャリ、と自分の首にひやりとした感触が絡みついた温度で急速に眠気が消し飛んだ。向けられる殺意も敵意も何も感じなかった事が反応を遅らせた。
 ソファにもたれて仮眠を取っていた彼の膝に跨りにっこり笑った来襲者に、敵と対峙したわけでもなく強烈な不安をアポロは覚えた。

「何の真似です?」
「えへへ。アポロさまの寝顔がかわいくて、つい首輪嵌めちゃいました」
「人の寝顔が可愛いと"つい"首輪を嵌めるのですか。面白い思考ですねそれは。何を考えているのです、ナマエ」
「ふふふ怒らないでアポロさま」

 アポロの病的な白さの首に、その拘束具の黒い色はよく映える。彼にとっては嫌味でしかない。
 胡乱な瞳で自分に跨る少女(の、皮を被ったもしくは悪魔)を見つめるアポロは、落ち着いた様子は崩さずに保っている。しかしその口元に「意地悪だ」と揶揄される常の笑みは、ない。

「アポロさまは繋がれるの好きそうだなあって思って」
「はい?」
「あ、やっぱりあたってた。だろうと思いました!」
「いえ。今のは肯定の返事でなく」
「だって、組織に飼い殺されてるのが好きって顔してるもんね」

 核心を突かれたように目を見開き息を呑んだアポロは、すぐに乱された心に冷静さを取り戻す。厳しく己を見つめる彼を保つためのプライドが、決して崩されることを望まない。

「繋がりを欲してここまで着いて来たのはお前自身でしょう?自分はどうなのです」
「そりゃ誰かに繋がれていたいけど、アポロさまほどじゃないです。その気になれば一人でだって生きていけますもん」
「支配される喜びを知ったお前が、果たして今外へ放り出されてそう強がれますかね」
「やだやらしーい。……アポロさまはどうなんですかい。もしわたしを捨てたら一人で寂しくって死んじゃうウサギさんのくせにー」

 むうっとじと目で睨んでくるナマエに、アポロはようやく優勢を整えたと手ごたえを感じて微笑んだ。

「そうですね。寂しくて死んでしまいます」
「う。ほらっ笑顔で口説かない!惚れちまうでしょーが!」
「惚れなさい。何度でも」
「う!うわああああっあああっ野生のタラシー!」

 何か恐ろしいものに遭遇したかのように全力で身を引いて騒ぎ立てるナマエに、何をそんなに今更照れる必要があるのかとアポロは内心呆れつつも面白がっている。その反応見たさについ意地悪く苛めてしまう心理は子供じみたものだが、表出する色気や狡猾な笑みは悪い大人の男そのものだ。

「お前がせっかく私を繋いでくれたのですから、お返しに、私もお前も繋ぎたいのですが」
「それはちょっと絵的に滑稽すぎやしません?主従が成り立たないですぜ!おかしいっ……」

 じりじりと後退りを続けていたナマエはベッドの角に膝をとられて仰向けで倒れこむ形になった。ぼふっと背中を柔らかなシーツが受け止めてくれるが、心地よさを感じている場合ではない。彼が、すっかり普段の彼通りに動くアポロが、追って乗り上げてくる。

「少しの間で良いので寝て下さい。"つい"可愛い寝顔に、首輪を嵌めてあげますから」
「あ、可愛いって言われたこと実は根に持ってたんですか?かわいい……いいっ!?」

 黙れ。口にする代わりに首筋に歯を立てた。
 可哀相に、ナマエに覆いかぶさる彼は首輪をされたところで素直に尻尾を振る従順な犬ではなかった。むしろ、噛み付く口実が出来たとほくそ笑むような狼なのだ。いかにも食べて下さいと言わんばかりに格好のエサを与えてしまったのだと、ナマエが気付くのはもう少し後の事、嫌というほど噛み付かれた後の話なのである。



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この度はななぴかり様宅『ハイエナ』の10万打企画に参加させてもらいました!狂犬アポロ様素敵です……誠にありがとうございました\^^/!
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