頂き物 | ナノ
 ガタガタと音をさせて、リーダーがエアコンのカバーを外す。ドライバーやら何やらでごちゃごちゃと中をいじり、あーここか、と気だるげに声を上げた。
 夏真っ盛りのこのときに、ジムのエアコンが壊れた。電源を入れて冷房を設定しても、ガーッと耳障りな音をたてるだけで少しも冷えやしない。幸い今は夏期休業中で挑戦者は来ないけれど、こんな状況でまともに仕事などできるわけがなく、機械いじりが大得意のリーダーが修理をすべく故障の原因を突き止めようとしていた、のだが。リーダーは舌打ちをして脚立から下りた。


「リーダー?どうしたんですか」
「めんどくせぇことになってやがる」
「え?」
「線が完全に切れてる。替えのパーツ買いに行かねぇと直せない」


 どかりと来客用のソファに腰かけ、煙草に火をつけながらリーダーは心底面倒そうに言った。この人が煙草を吸うときはイライラしている証拠。出不精のリーダーは外にパーツを買いに行かなければならないことが煩わしくて仕方ないのだろう。あたしとしてはちょっと行って帰ってくるだけじゃないかと思うのだけれど、彼にとってはそれは“ちょっと”ではないらしかった。
 しかしながら、このままエアコンの効かないジムで仕事なんてしていられないのだから、行ってもらわなくては困る。あたしが機械に詳しければあたしが買いに行くこともできたけれど、生憎あたしにそんな知識はなかった。このままではナギサのジムトレーナー全員が熱中症になって倒れてしまう。それは勘弁だ。


「リーダー、あたしも一緒に行きますから、ちゃちゃっと買ってきちゃいましょうよ」
「めんどくせぇ。夜になって涼しくなってからにしようぜ。こんな暑い中外出たくねぇよ」
「クーラー使えなきゃ室内の方が暑いですって!」
「地下は涼しいぞ」
「地下って物置じゃないですか…そんなところに何時間もいられませんよ!」
「俺はいられる」


 ふんぞり返って宣うリーダー。本当に横着な人だ。あたしが呆れて物も言えずにいると、彼はさっさと地下室へ下りるべくすたすたと歩き出した。慌ててあとを追いかけるあたし。このまま夜まで仕事が進まないなんて冗談じゃない。こっちは書類が溜まっているのだ。
 どうにかして、このリーダーを外に連れ出さなければ。何か策はないかとあたしは頭を唸らせた。


「ねっ、リーダー!買いに行ってくれたらアイス買ってあげますから!」
「ガキかよ。アイスごときに釣られるか」
「じゃあ等身大ライチュウぬいぐるみも買ってあげちゃう!」
「だから俺はガキか」
「じゃあ!じゃあ!イッシュ限定ゼクロムフィギュアは!?」
「こないだカミツレからもらった」
「あっそうだった!」


 駄目だ、テコでも動きそうにない。リーダーは基本的に何でも適当なくせに、変なところで頑固だ。その意思の強さが魅力的でもあるのだけれど、今回は少々具合が違う。こんなところで意固地になられては、部下全員が困るというのに。
 どうしたらリーダーを誘い出せるのだろう。リーダーが食いつきそうなものって何だ?リーダーの好きなもの、リーダーの好きなもの…!


「ナマエ」
「はいっ?」


 着々と地下への階段を下りていたリーダーが立ち止まり、こちらを向いた。あとを歩いていたあたしも当然止まる。階段のおかげでリーダーを見下ろすようになったあたしを見上げて、リーダーはニッと笑った。


「お前が俺の彼女になるなら、行ってやってもいい」
「………。はっ?って、ちょ、」


 リーダーの手が、あたしの後頭部を掴んで引き寄せる。鼻の先がギリギリ触れるか触れないかの距離で、リーダーは囁いた。


「お前俺のこと好きだろ」
「なっ…!」
「バレバレなんだよ」


 ぷちゅ、と唇に生温い感触。何をされているのか理解したときには、それはもう離れていた。
 「お前俺のこと好きだろ」。リーダーの言葉がリフレインする。一瞬の間を置いて、体がぼっと燃え上がるように熱くなった。


「えっ、えっ、えっ!?」
「何天パってんだよ。ほら、行くぞ」
「ええっ、なん、えええ!」


 あたしの手をとり、今下りてきた階段を上り出すリーダー。あまりの急展開にあたしはただあたふたするばかり。リーダーは一体いつからこんな展開に持ち込もうとしていたのか。見事にしてやられた、と思った。
 でも。つながれた手が異様に熱いのはエアコンが壊れたからではないと、自分でもよくわかっていた。









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遥さんから誕生日プレゼントに頂きました!なんだこのイケメン……ナギサのスターの魅力が滲み出ててやばいです。ありがとうございました!
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