チョウジのアジトで一度戦った幹部を一人倒して、地下通路の鍵を手に入れた。コガネの地下街の奥に、局長さんは閉じ込められているらしい。あたしに敗れた幹部さんは、ご丁寧に道順まで説明してくれた。「俺様は優しいからな」なんて言って笑っていたけれど、「ロケット団幹部」という肩書きがなければ本当に優しそうなおじさんだな、と思った。聞くのはもう二度目になるラムダという名前を、あたしはそっと心の中にしまった。
あたしはラジオ塔を出て、ラムダさんに教えられた通りの道を急いだ。もしかしてあたしが鍵を手にしたことが既に知れていて、局長さんの身に危険が及ぶかもしれない。たとえラジオ塔をロケット団から取り戻したとしても、局長さんも無事でなければ意味がないのだ。
あたしの足音がかつかつと地下通路に響く。ふと一瞬、どこかで嗅いだことのある匂いがふわりと香って足を止めた。
否、止まった。
「っ…?」
足は止まったばかりでなくもつれてあたしは地下通路の固い床に倒れ込んだ。起き上がろうとして床についた腕には力が入らず、あたしはかろうじて頭だけを上げて辺りを見回した。
つい一瞬前に香った匂いが強くなる。あたしはその匂いの正体を知った。
ドガースの、毒ガスだ。
「やあ、さっきぶりだねお譲ちゃん」
「!」
地面とほぼ同じ高さにあるあたしの視界の中に、グレーのブーツが現れる。見上げずともあたしにはわかってしまった。
その声と、この臭いだけで。正体を知るには、十分だ。
「ラ、ムダ、さん……」
「おー名前覚えてくれたの?嬉しいねぇ」
よっこらせ。と、年寄りくさい声と共に彼はその場に胡坐をかいて座る。かろうじて、その表情を視界の中に入れることができた。煙草をふかした彼のそばにはドガースが一体。やられた。
「だ、ましたのね…!」
「人聞きの悪いこと言うなって。俺はただお譲ちゃんに鍵やって道教えてやって、先回りして待ち伏せてただけだ」
「…っそれが、!」
「まぁ騙したってんならそういうことにしてやってもいいよ。けどな、俺たちゃ悪名高きロケット団だぜ?そこんとこ忘れてもらっちゃ困るぜ」
「くっ…!」
悔しさにぐっと歯ぎしりした。迂闊だったのはあたしの方か!
「俺様は優しいからな」と言ったあの笑顔に、あたしはまんまと騙されたのだ。きっと根は優しい人なんだろうな、なんて思ったあたしが馬鹿だった。悪人はいとも容易く善人の皮を被る。そのかぶり物が、あたしには現実に見えたのだ。
毒が回ってきたのか、呼吸が落ち着かなくなってきた。共にここまで戦ってきたメガニウムはもうぐったりと床に伏している。やる瀬ない思いに、涙がこぼれた。
「こら泣くなって、女泣かすとアテナに怒られんだよ」
「うう…っ」
「そんな怖がらなくても大丈夫だって、殺しゃしねぇし。俺様は優しいからな」
ラムダさんの手があたしの頬に伸びる。振り払うことなど当然叶わなかった。
(“優しい”の意味なんてもうわからない)
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勝てば官軍、の遥輝さまから相互記念にラムダさんの鬼畜夢をいただきました!悪いラムダさんたまらないですなんて悪どくて素敵なおじさん!
本当にありがとうございます、そしてこれからよろしくお願いします!