これも全て夢ならば、
嗚呼、どれ程良かったか
怯え切った彼女の瞳、私の手には鈍く光るナイフがあった。これからどうすれば良いかなんて、考えなくても理解できる。
『……ランス、様……っ』
「……愛していますよ、ナマエ。」
『……っ』
彼女の瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。彼女は私を見て、穏やかな笑みを浮かべた。
『私も愛しています、ランス様……』
視界が、赤く染まる……
「……っ!」
夢を、見ていた。私が、彼女を殺す夢を。
この手に残る感触が、妙にリアルで。
(……最悪の寝覚めですね)
喉の渇きを潤す為に布団から出て、流しへ。もぞもぞと動く、隣の布団。眠っていた彼女を起こしてしまったらしい。
コップに一杯水を入れ、一気に飲み干した。
「……んっ……」
『……ランス様……?』
「ナマエ、起こしてしまいましたか」
『大丈夫……です……』
まだ寝惚けたままのようで。私に笑いかけた彼女に、ドクン、心臓が跳ねた、気がした。
彼女をこの手で壊したい。黒い感情が、尽きることなく溢れ出す。
『……?ランス様……?』
「ナマエ……」
足元には何故か、月の光りを浴びて銀色に光るナイフ。堪えきれなかった。
私はそれを手に持つと、彼女に笑いかける。
「……愛しています」
『私も、大好きですランス様』
彼女も笑った、幸せそうに。そこで、堰を切った様に私の中に流れ込む黒い感情。
ナイフを手に持ったまま、彼女を布団に押し倒した。
『え……っ!?』
「フフ……良いですね、その表情」
初めは驚き、けれどナイフを突き付ければ恐怖に変わる彼女の表情。頬に赤い筋を作ると、私はその傷をなめてやった。
『痛っ……』
口の中に広がる、苦い錆の味。彼女の物だと思うとそれすら愛しくて。
「……美味しいですね」
『何……考えてるんです……ランス様……』
「貴方の愛を、確かめているんですよ」
そう言ってしまえば、何も返せなくなる彼女に。良い子ですね、と、啄む様なキスを送る。
今度は、彼女の頬を思い切り殴りつけた。左手だから威力が落ちてしまうのが、惜しい。
殴った頬が赤くなる。怯えた彼女、少しだけ、瞳に涙がたまる。
『こんなの……おかしい……』
「おかしくなどありません。……大丈夫です、私はちゃんとナマエを愛していますから」
『……っ』
二度、三度。何度も何度も、彼女を殴った。赤みを帯びて腫れた彼女の頬に、小さくキスを落とす。
『……ど……して……』
「……」
『ランス様……っ!』
……何故彼女はこんなにも、嫌がるのだろう?私が彼女を愛しているのが、わからないのだろうか。
目に留まったのは、私の右手に握られたナイフだった。
「ナマエ……」
『い、嫌……ランス、様……ごめ、んなさい……!』
怯えきった彼女の瞳。謝ってほしい訳ではないのに。
わからないなら……分からせるしか、ないだろう。
「愛しています、ナマエ」
『……っ、あ……』
「ですから……私だけのモノに、なって下さい」
彼女に向かって微笑む。彼女はゆっくり、瞼を閉じた。涙が一筋、溢れ落ちる。
ナイフを構えるのと同時、彼女は私に向かって微笑み。
『私も愛しています……ランス様』
ようやく理解してくれた。喜びに体が震えて。
構えたナイフは、彼女に突き刺さり。角度を変えて、幾度も幾度も、赤い噴水を、湧かせながら。
視界が、赤く染まる……
「ふふ……ふはは、はは」
彼女だったモノを、強く抱き締めて。彼女の表情に恐怖はなく、その瞳は、何も映していなかった。
「どんな姿でも愛していますよ、ナマエ」
『……』
「これで貴方は、私だけのモノですね」
もう何も答えない彼女の唇に、口付ける。まだ温もりの残る彼女の骸に、何故か虚しいと感じた……
正夢に溺れて
(これも全て夢ならば)
(どれ程良かっただろう)
(狂った私の)
(何処か冷静な私が)
(そう、呟いた)
----------
キリ番で『ランスさん狂愛夢』をリクエストさせていただきました^^
かっこいい……ヤンデレ最高ですね!
この度は本当にありがとうございました!