暴力表現&死ネタ注意
ぶらりと垂れ下がった自分の腕に寒気を覚えた。痛みを感じる機能は麻痺してしまったのか不思議と痛みを感じることはなかった。ただ見た目が気持ち悪くて腕って折れるとこんな変な方向に曲がるんだ、なんて間の抜けたことを考えた。よく見ると腕以外にも気がつくと消えかかっているが多数のあざがある。いつこんなあざ作ったっけ?というかなんでこんなに傷だらけ? そう考えているとグッと首にものすごい圧力がかかった。気道がふさがり息ができない。 わたしの首を閉めているのは見覚えのない男の人だった。 その瞳は鈍く光り、吸い込まれてしまいそうだと思った。
「うぐ……っは、あ」 「なあ、ナマエ」
さすがに首を思いっきり男の力で占められたらいくら痛覚が麻痺していても、かなり苦しい。 あれ?というかなんでわたしはこの人に首を絞められてるんだ?というか誰この人?
「また忘れたのか?俺のこと」 「っ!!」
首にかかっていた手が外れたと思いこれ幸いと体に酸素を送り込もうとしたが、彼に鳩尾を殴られたことでそれは無駄なこととなった。 腹を抱え込むようにしてわたしは倒れ込む。人間なんだからここ殴られたら息できない。さすがに酸欠になり、ちかちかと視界が眩む。
「お前ってホントにひどいよな。あんなに俺がお前のこと好きだっていっても忘れちまうんだから」 「っげほ………なんの、こと?あなた、だれ……?」 「……ほんと、ひでえよ。お前自分の彼氏にだれ?って聞いてんだぜ?」
この人が? でもわたしのことすっごい殴ったりしてるのに?
「なあナマエ、どうしたらお前は俺のこと忘れないんだ?どうしていつも俺のこと忘れちまうんだよ?」 「そ……そんなこといわれても……」 「いっつもいっつもいっつもどんなに俺がお前のこと思っててもナマエには伝わんないんだ。それがどれだけ苦しいのかわかるか?つらいのかわかるか?ほんとに、よ!」
再び彼はわたしを殴りつけてきた。ぐわんと視界が回り、頭もくらくらする。 その感覚にどこか覚えがあった。たしか、まえにも。
そこで思い出した。
彼は、確かにわたしと付き合っている。以前の彼は本当に優しくて、思いやりがあって。私はそんな彼が―――オーバが大好きだった。 だがいつからかオーバはわたしに暴力を振るうようになった。 毎日毎日、狂ったように振るわれる暴力にわたしは疲れはてしまった。しかし逃げることは許されず、仮に逃げたりしても必ずわたしを見つけ出しさらにひどいめにあわされる。逃げ出すことは無駄だと悟った。 しばらく暴力を受け続けた体を守るためだろうか、痛覚は機能することをやめてしまった。 どうやらそれはオーバの気に触ったらしく、また殴り付けられてしまった。
だがここで勘違いしてほしくないのだが彼はわたしが嫌いなわけではない。むしろ逆であった。異常と言えるまでの独占欲ゆえの暴力。それが彼の不器用な愛し方んだと笑い飛ばせればどれ程よかったことか。
「どうしたらいい?お前が俺を忘れないためには」 「お………」 「ああ、そうか。わかったよナマエ」
彼は腰についていたモンスターボールを1つとりだし中の相棒を出した。ぼそぼそとなにか指示を出している。 わたしの意識は事切れる寸前だった。さすがにもうダメかな。そう考えると突然周りの空気が熱くなるのを感じた。
「お……オーバわた、し」 「俺のこと思い出したかナマエ!ちょうどよかった!俺もっといい方法思いついたんだ!そうだよ最初っからこうしとけばよかったんだよな」
焦点の合わない目でオーバの横に目をやる。 そこには彼の相棒が口いっぱいに炎をためてこちらをうかがっていた。さっと全身の血が引いていく感じがする。まさかまさかまさか――
「いまお前が俺を覚えていてくれる状態で死んじゃえば―――もう忘れることはないだろ?」
そういったオーバの表情は以前よく彼がわたしに見せてくれたあの優しい表情そのものであった。その顔にわたしは少し安堵した。彼は根本的に変わってない。
そして体が焼ける音、臭い、感覚。
ただあかいあかいあかいあかい色に溺れた。
気の狂いそうなあかに蝕まれながら、ぼんやりと考えた。
これでオーバも、わたしも楽になれたのかな?ううん、
――――わかんない。
そしてそのままなにも見えなくなった。
わたしの朱が目に痛い (20100711)
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