他人を好きになることは素敵なことだと思う。 その人のために毎日が楽しくなったり、いいことは多い。だがそれによって周りが見えなくなったり、少々の害が及ぶこともある。それも恋は盲目っていうくらいだから仕方ないとはおもうよ。でもさ――
「……アポロさんどうしてわたしのベットの中にいらっしゃるんですか」 「愛ゆえです」 「意味分からん」
限度ってあると思うんだ。
本日もいつの間にかわたしのベットの中に潜り込んでいた変態、もといアポロは満面の笑みでわたしのほうを向いた。 最初のほうは叫んだり逃げたりしてたけど最近耐性がついてしまったのだろうか。あまり動じなくなった。………こんなんでいいのかわたしは。
とりあえず目の前の変態を思いっきり足蹴にしてベットから突き落とす。ふぁーとあくびをしながらわたしも起き上がった。
「痛いじゃないですか」 「勝手に不法侵入してる奴に文句なんていわれたくないね」 「まあ愛に障害物はつきものですよね」 「アポロの言ってる障害物って法律か」 「寝てる間に服脱がしてそのまま既成事実でも作ってしまおうかと思ったんですが、あまりにもナマエの寝顔が可愛くて眺めてたら朝になってました」 「本気で殺すぞ」
わたしもそこそこ生きてるがこんな残念な人初めて見た。正直どう対処したらいいのかわからない。通報するともすごい勢いで逃げ出してしまい、警察が来る頃には跡形もなく逃げ去ってしまうのだ。 なんども通報したけど一度も捕まらなかった。カメラを仕掛けても無駄だった。 おかげでわたしは警察に迷惑な奴と思われて、いまでは取り合ってくれなくなった。こんなに被害あってるのに。次から税金泥棒って呼んでやる。
「あ、朝ごはん何にします?確か卵とベーコンがありましたよね」 「どうしてごくごく普通にうちの冷蔵庫の中身を知ってるんだ」 「毎日通ってますから」 「ははは、気持ちわる」
乾いた笑いをもらしながら絶対零度の目で彼を見る。するとどこか嬉しそうに笑いかけられてしまった。どうやらわたしの攻撃は外れてしまったようだ。
「できましたよ、とりあえずパン四枚とサラダ、ベーコンと目玉焼きを五個です」 「なんてわたしのつぼを得た朝食、……でももう突っ込まないからね………いただきます」 「はい、めしあがれ」
目の前に用意された朝食に向かい手を合わせる。 いくら作ったやつが変態だとしても、うちの食材たちに罪はない。しっかり食べますから。 彼の用意した朝食はかなり悔しかったが美味しかった。ほんとに悔しいから絶対に言わないけど。 ちらりと彼のほうをうかがうとすごくうれしそうにこちらを眺めていた。
「……アポロのぶんは?」 「ナマエが食べてるのを見てるだけでお腹いっぱいですよ」 「……あっそ」
考えてみたら彼はよくわたしの食事を作るが自分が食べているのは見たことがない。睡眠すらとっているところも見たことがない。いや、見せないようにしているのかもしれないが。というか先ほどの彼の言葉を聞く限り寝てもいないんじゃないかな?自業自得だとはおもうけど。
「……これあげるよ」 「口に会いませんでしたか?」 「ううん、美味しかった。ただお腹一杯になっただけ」
口からは嘘と本音が同時に出てしまった。正直全然足りてないけどなんだか一人でがつがつ食べてるのは彼に悪い気がした。でも「食べろ」っていってもきっと彼は食べないだろう。変な所意固地だから。でも食べかけはやり過ぎたか……?
……うっかり美味しかったとか言ってしまった、くそ。言わないようにしてたのに。 わたしの言葉に驚いたのか彼は瞳を見開きながらこちらを見てきた。ああ、こんな表情ってはじめて見たかもしれない。
「じゃあいただきます」 「やっぱり作り直そうか?」 「いえこれで」 「………なんでそんなにうれしそうなの」 「間接キスだなと思いまして」 「それで喜んで許されるのは中学生までだって」 「それは失礼」
笑いながら彼は口に食べ物を運んだ。その様子をわたしは眺める。 なんだかいつもと逆になった気がする。
「なんだか新婚夫婦みたいですね」 「その口にフォークぶち込んでやろうか」
思わず顔を背けた。 不覚にも同じことを考えていた、なんて 言わないけど。言えないけど。
「第一恋人でもないのにいきなり新婚生活ってどうなの」 「じゃあ恋人から始めます?」 「冗談言わないで」
すこし残念そうに彼の眉が下がった。 その様子を見て少し言い過ぎたかなって思ってしまう。 最近彼の行動に振り回されすぎてなんだか変な情が移ってしまったような気がする。
「でも」 「………?」 「友達からだったらなってもいいよ」
カシャン、と音を立てて彼が持っていたフォークが落ちる。口をぽかんとあけている姿をみて、思わず笑いがこみあげてきた。そんな人間味のあふれる表情をもっと見て見たいと思うわたしは、相当彼にほだされてしまっているらしい。
「これで公認ですね、早速指輪買ってきます」 「友達って言っただろ勘違いすんな」
彼のペースをうざったいと思いながらもそれに流されたくなってしまうと思い始めていた自分に、わたしはまだ気がついていなかった。
時間の問題かと。 (20100717)
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