「だあああ!この湿気どうにかならないのかよ!」 「うるさいですよラムダ」 「ただでさえ陰気なのに余計気が滅入るわ」 「そんなんだからドガースしか手持ちに入れられないんですよ」 「え、なに文句だけで言ったらこの仕打ち?というかランスお前喧嘩打ってるのか」
一週間は雨が続いている梅雨真っ盛り。 その影響は主婦たちだけではなく、この組織にも影響をもたらしていた。
「せっかくの休みなのに何もする気起きねー」 「湿気が多いと化粧のノリも悪くて困るのよね」 「湿度85%だそうですよ」 「髪の毛も跳ねるしサイアクー」 「ランス…年頃の乙女かよ気持ち悪りい……というかお前の髪もはや跳ねてるのレベルでは収まりきらない気がするんだが」 「ストライクみたいよね、鎌ひろげて威嚇してるときの」 「ちょっとアポロさんわたしが髪が多くて羨ましいからってあんまり見ないでくださいよ」 「……とりあえずお前は減給です」 「え」
部屋の中で四幹部でダラダラと過ごしていたのだが、あまりにも高い湿度のせいで全員のイライラは最高潮に達していた。
「なんでアポロさん冷房入れないんですか。ドライでいいんで入れてくださいよ」 「5月から17度で冷房ガンガン入れたどこぞのバ幹部のおかげでものすごい赤字になりつけられないんです」 「ダメじゃないですかラムダさん!地球環境の敵!」 「100%お前のことだ」 「ん?そういえばナマエはどうしたの」
喧嘩になりそうになったところで、ふと思い出したかのようにアテナが言った。 その発言にランスは少し嫌なものを見るように外を指差した。その方向を他の三人が見ると。
「うわっ……」
ランスが指を指した方向には外が見える窓。今日も雨はどしゃ降りで、通常の人間なら外に出たいとは思わないだろう。だがナマエはそんな常識をぶち壊す勢いで外ではしゃいでいた。 その様子を見ながら冷たい目線を送る三人。
「なんであいつはあんなに嬉々として外ではしゃいでるんだ……?」 「濡れてるだけじゃなくて泥まみれじゃないですか」 「なんか自分から水溜まりに飛び込んでるわよ。……満面の笑みで」
部下の理解しがたい行動にその場の全員が顔をしかめた。 はあ、と息を吐きながらランスは語り始めた。
「嵐とか好きみたいですよ、雨が降ると必ず外飛び出していきますから」 「それが許されるのは小学校までだろ」 「"手持ちが全員外に出せるから雨は好きです!"っていつだか言ってましたっけね」 「あの子の手持ち全員水タイプだしねぇ」 「ヤドキングを出してるんでわたしも初日は参加したんですが、連日はさすがに無理でした」 「そこは切実に参加してほしくなかったです」
そんな会話をしていると満足するまではしゃいだのか、ナマエが外から帰ってきた。
「むはー楽しかった!ってあれ皆様お揃いで。どうかなさいました?」 「とりあえずお前風呂入ってこいよ。そんなずぶ濡れで歩き回るから床が……」 「うっ、汚いし生臭いわ!あなた女の子としてのプライドとかはないの?」 「おおっとずいぶんな言われようですね!まあ汚いってのは認めますんでシャワー浴びてきますー」
歩くたびにぐちょぐちょと不愉快な音を鳴らしながらナマエはシャワー室へと走っていった。
「……あいつの歩いたあとが濡れてるんだが」 「ラムダさん拭いといてくださいよ」 「なんで俺様が!」 「わたし処理したくありませんから。ばっちいです」 「気持ちわるっ!お前それでもあいつの上司か!」 「ちょ、雑巾投げつけないでくださいよ!」 「ナマエ見てたら余計湿気が上がった気がするわ」 「湿度90%……確実に上がってますね。はあ、もう諦めてドライいれましょうか」
と、ナマエの登場によりいっそうテンションの下がった幹部たちだった。
「ふっふっふーんシャワーも雨も気持ちよござんした!」 「…………うざいな」 「…………うざいですね」 「…………うざいわ」 「ヤドンのしっぽ」 「あれ一名を除き酷い罵倒が!……というかこの部屋湿度低くないですか?」
何気無くいったナマエの一言に青筋を浮かべる三人。イライラはすでに限界値を越えていた。
「ダメですよ梅雨をもっと楽しまないと!」 「はじめて聞いたぞ梅雨を楽しむなんて」 「梅雨の魅力はじめじめした空気と生臭い雨にあります!」 「人類の大半はそれを嫌ってるわよ」 「醍醐味と言えばあれですよね『お気に入りの傘で学校いって、帰りに傘立てみたら盗られてた』こんなドラマが溢れてる素敵な季節なのに!」 「腹立たしすぎるドラマですね。やられてる人よくみますが」 「とまあそんなわけでドライをやめて皆で外へ………」
そこまでいった時点でナマエは自信に向けられている殺気に気がついた。だが時すでに遅し、首根っこを青筋を浮かべて笑う赤髪の女幹部にわしづかみにされていた。
「ア、アテナさま?早まっちゃ行けませんよ」 「もう限界。イライラしすぎて肌に悪いわ。解消しなきゃ」 「お父さん!アポロ様!助けて!」 「アテナいいぞやっちまえ」 「正直わたしもイライラしてましたし……どうぞお好きに」 「酷い!ランス様……ってあれいない」 「ランスなら飽きましたっていってさっき出てったぞ」 「え、まじですか。わたし死亡フラグ?」 「おとなしく殺られてきたらどうですか?」 「そんなああああ!!」
ナマエの助けを求める声も虚しく、彼女は女王の生け贄となり絶叫へと変わっていった………
(20100714)
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