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※捏造注意


 彼女は毎日僕を殺しに来る。

 シロガネ山にしんしんと降りつもる白い雪。
 ぽつんとそこに立っている少年――レッドはただ虚ろな目でどこか遠くを見つめていた。

 今日は雪がそんなに強くないな。そんなことを思いながらふう、と一つ息を吐いた。息を吐いても山の空気に変化はない。すると、ざくざくと1人分の足音がする。

 ああまたやってきた。
 レッドは一度目をつぶり、そして音のするほうに体を向けて目を開く。レッドが見た方向には幼なじみであるナマエが立っていた。

「こんばんは、レッド」
「こんばんは、ナマエ」
「……今日こそ貴方を殺してあげる」
「どうせ無理だよ、だいたい何回目かなその言葉」

 レッドの言葉が聞こえていないかのようにナマエはボールを手に取った。レッドもそれにこたえるかのようにボールを構えた。


* * *


「また勝てなかったね、ナマエ」
「…………」

 ナマエは力なく倒れた自らのパートナーをボールに戻した。手持ちはもういない。
 一方レッドのほうは一体も手持ちが減ってはいない。先鋒のピカチュウが誇らしげにレッドのもとへと帰って行った。

「……また、明日来る。次は絶対負けない」
「うん」
「明日こそ、レッドを殺してあげる」
「……うん」

 ナマエは悔しそうにレッドのほうを見つめた。レッドのほうは全くと言っていいほど表情を変えない。

 そこでレッドは懐かしい記憶を思い出していた。
 むかし、マサラで自分やグリーンを追いかけまわしていた幼い頃の小さな彼女。
 ひょこひょことついてくるナマエにレッドとグリーンが顔をほころばせたのは言うまでもない。

 気がつけば、レッドもグリーンもナマエも大きく成長し、旅に出た。
 それが何年前のことだったのか、レッドにはもう思い出せない。
 いつのまにか小さかった彼女はレッドの身長をぬかしてレッドよりも大きくなっていた。

「レッド、次こそは勝つから。勝つんだ、から」
「……うん」

 ナマエの顔には一筋の雫。その雫が頬から落ちるとすぐに凍ってしまい、ポトリ、と小さな音がする。

「ナマエ」
「レッド。もう気が付いてるんでしょう?」
「…………やっぱり聞こえないか、僕の声」
「どうしてはこの山の中にずっと立っていられるの? 吹雪いてるしこんなに寒いのに。それに何年前からずっと背丈も変わっていない。どうしてレッドは少年のままなの?」
「…………」
「もうあれから何年もたってる、でもあなたは全く変わってない。それはレッドが―――」

 その瞬間びゅうと風が強く吹きナマエがなんて言っているのかはっきりとは聞き取れなかった。

 レッドは今までの出来事を反芻する。

 今ではもう思いだせないけど、カントーの頂点になってトレーナーの頂点に立った。
 それからどうしたんだっけな。一番になることを夢見て。頂点に立って見えたのはただの虚無感だけで。
 ここまで強くなってしまえば骨のあるトレーナーなんて会えない。毎日が退屈で窮屈だった。
 以前みたいに純粋にバトルを楽しむことができなくなっていたんだ。
 そしてふと気がついたらこのシロガネ山に立っていた。
 そこでただただバトルをした。野生のポケモンや、時々来る人たちと。 みんなそれなりに強かったけど僕には勝てなくて。
 しばらくそうしていて違和感を感じた。
 息を吐いても息が白くならない。歩いた後に足跡がつかない。寒さを感じない。
 そして気づいた。
 もう自分は人ではない何かになっていることに。

「レッドは人一倍責任感がつよかったから………自分が一番上にいる限りはいなくなれないんだよね」
「ナマエ、僕は」
「だから。わたしがあなたを倒して」

 レッドが話しかけても彼女には伝わらない。
 彼はもう表情の作り方も、感情の表現をどうするのかも、思い出せない。 彼の声の聞こえない彼女は続ける。

「貴方の存在意義をうばうの。……そしたらちゃんと成仏できるでしょう?」

 くしゃくしゃの顔で言われても説得力無いよ、とレッドは呆れた。誰よりも自分が居なくなるのを拒んでるのはナマエであることを知っていたからだ。

 だが彼は思いを伝える術を持っていない。ゆえに黙って彼女をまち続ける。形にならないのを理解していなくとも、白い唇が言葉を紡ぐ。

「またおいで。ずっとずっとまってるから。君に負けたら僕は一番上の重みから抜け出せる。――そう、改めて死ぬことができるから」

 はやく、愛しい君の手で。



死んでいないのです
生きてもいないのです
お願いです
私を、殺してください

白銀山死亡説...レッドは既に死んでいてHGSSで白銀山にいるレッドは幽霊であるという仮説 (20100619)
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