とある名もなき魔女の話 | ナノ
 ワタシは生き物を驚かすのが好き。ワタシの声を聞いただけで喚きながら逃げ惑うモノたちの姿はとても滑稽で面白い。とくにニンゲンを驚かすのは一番楽しい。変なリアクションをとってくれるからね。大半のニンゲンはワタシを「魔女だ」「怪物だ」とかいって泣きながら逃げたりする。変な奴だと襲いかかってきて捕まえようとしてきたりするの。ワタシはムウマージっていうポケモンだから魔女でも化物でもない。言いがかりなんだけどニンゲンはそんなことにはお構い無しだ。まあ捕まるようなへましないけどね。
 そういえば前にニンゲン達が「魔女退治」とか言って武器をもってこの森に来たこともあった。でもワタシがちょっとあそんであげたらみんな泣きながら帰っていたわ。ざまぁみなさい!
 でも遊びすぎたせいかしら。最近は誰もこの森に近づかなくなっちゃった。派手にやり過ぎたかしら。あーあつまんない。

 そんなことを考えながらいつもみたいに山をブラブラしてたらニンゲンの気配が山のなかに入り込んできた。あら、久しぶりのニンゲンだわ。またワタシを「退治」でもしにきたのかしら。暇潰しにはちょうどいい。早速脅かしてあげましょう。楽しみだわ!
 くすくす笑いながらゆっくり草木の影を移動しながら気配のした方へ近づく。この森はいつだって暗いから闇に紛れやすい。
 気配のしたところまでいくと倒れた木の幹に腰をかけているニンゲンを見つけた。あのニンゲンは子供なのかしら? すごく体が小さい。本当に珍しいわね、子供のニンゲンを見るのは何年ぶりかしら。近くにポケモンもいる。たしかあればラルトスっていったかしら。……でもあんまり強そうには見えないわね。警戒する必要は無さそう。
 ニンゲンは幹の上でうずくまってぴくりとも動かない。膝を抱えて固まっている。それとは対照的にラルトスはおろおろとうろついている。
 ……あのニンゲン生きてるわよね。あんなとこで死なれてたら困るんだけど。死体の臭いは公害の域に入るくらい凶悪なのに。余りにも動かないから心配になってきた。確かめなきゃ駄目かしら。
 そう考えて近付こうとしたら思わず茂みにぶつかってしまった。
 ガサリと大きな音がなる。しまった。その音に気がついたニンゲンが、ばっとこちらを向いた。なんだ生きてたのね。一瞬だけそんなことを思い浮かべた。

「………だれ?」

 そのニンゲンがこちらに向かって声を投げる。
 ……うーん、出ていったほうがいいのかしら。ニンゲンに罠をはっていいたり攻撃を仕掛けてきそうな気配はない。心配する必要は無さそうね。
 まあ、ワタシの居場所はバレちゃったみたいだけど、普通ならワタシの姿を見ただけで逃げ出すはず。バレたってあまり変わらないわ。
 そんな結論を出して、ワタシは勢いよく草むらから飛び出した。さあ、喚いて逃げなさいよ。そんなことを考えてニンゲンの顔をみる。恐怖に歪むであろうその顔を。
 しかしワタシの目論見は外れることになった。そのニンゲンはワタシをみても叫ばなかったし逃げ出したりもしなかった。差ほど驚いた様子もない。むしろニンゲンよりラルトスのほうが驚いたようだった。口を大きく開けて倒れ込んでいる。

 ばちりとニンゲンと目があう。目は赤く腫れ上がり、顔はぬれてぐしゃぐしゃだ。このニンゲン―――泣いてた、の?

「あなたは……だれ? もしかして、このもりにいるようせいさん?」

 ……………。
 泣いていたニンゲンがワタシを見て意味のわからないことを言い出した。思わず地面に頭をぶつけてしまう。地面に触るなんていつ以来かしら。ワタシ特性ふゆうなのに。なによこのニンゲン。泣いてるし。ワタシを見て"妖精"だなんて。そんなの初めて言われたわ。なんなのよ、なんだっていうのよ。
 ………全く、変なニンゲンだこと。



おどろかす【ゴーストタイプ:物理技】
大きな声などでふいに驚かせて攻撃する。
相手をひるませることがある。


(20100216加筆修正)

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