「……で、そのおまけとやらはなんなのですか」 「んー。一言では表しにくいんだけどね。無理やり表現すると《うさん臭い》ってとこかな。あっち見てみなよ」
シアンの視線の先には、先ほどの社長と談笑している男性の姿があった。あれがどうしたと言いたげな表情を浮かべ、ランスはシアンを睨んだ。するとシアンの口からは小さなため息が出る。
「知らないの……? 社長が喋ってる人って、大手電気メーカーの取締役なの。よくCMとか映ってるじゃない。総取締役がしゃべってるあれ」
そういいながらシアンはそのCMの物であろうキャッチフレーズとメロディを口にする。だがランスは全く聞き覚えが無いらしく、顔をしかめたままほんの少しだけ首を傾げた。
「……テレビは観ないもので」 「観なさいよそれくらい。情報に疎いと損するわよ。まあいいや、本題に入るわね。 本来ならあの電力メーカーの総取締役なんて大物がこんなぽっと出の会社の開いたパーティーなんかに出るはずないの。事業拡大に必要になるような会社とも思えないし。明らかにおかしいわ。取引先の社長の会社は最近急成長したとこなんだけど、それにしたってあんな大手は来るはずない」 「それが、うさん臭いと思う原因ですか? ……だとしたら言いがかりではないでしょうか。会社同士のパイプラインを強くしようとすることくらい、よくあることではありませんか」 「話は最後までききなさい。それにしても……」
横目にランスを見ながら、シアンはにやついていた顔をしかめた。何か気になることでもあるのかと、周囲を警戒したランスだったのだが。
「……うーん、なんか総取締役ってめんどくさいわね。じゃあ電気メーカーの方を電丸、取引先の方を肉玉と名付けよう。これで呼びやすいわね!」 「…………」
冷ややかな目線を浴びせるランスに気がついているのかいないのか、シアンは視線をどこか遠くに投げながら話を続ける。
「こっからが重要なんだけどね。肉玉の会社が最近急成長した理由が、色んな大手企業からの資金提供があったからなの」 「資金提供?」 「しかも巨額で無償。その大量の資金で事業を拡大。そして肉玉の会社は下請け小企業から将来有望な大企業へと見事な変貌を遂げましたとさ。まー肉玉の恩恵を受けてるうちの会社としてはありがたい話なんだけど。 とはいえ、ただの小企業に多額の資金つぎ込むだなんて、そんなうまい話が転がってると思う?」 「あり得ませんね。もし理由があるとすれば……なにか、裏がある」
ランスがそう言うと、にたりとシアンは楽しげな笑みを浮かべる。彼女が社長のいる方向へと顔を向けると、髪につけている飾りがしゃらりと美しい音を奏でた。
「そういうこと。こっちはね、あの肉玉がなにやってるのかを教えてもらってより一層仲良くしたいのよ。あわよくば他の皆様との友情の深め方も教えてもらっちゃおう! ってのが今回の任務の内容よ」 「……弱味を握って揺すってやろうとは言えないんですか」 「うんそうとも言う。とりあえずあたしはあの肉玉ともーちょい親しくなってくる。あ、あんたもう別に用ないから帰ってくれて構わないわよ」
視線をランスに合わせないまま、シアンはランスを追い払うように手を振った。そしてそのまま人混みの中へと足を進め、ついにランスの視界から消えてしまった。 彼は始終ふざけた様子の彼女をみながら、誰にもわからない程度の小さなため息を吐いた。
---------- マンネリから早く脱したい (20110524)
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