「アポロさん、失礼しま……」
ノックをして扉を開く。ランスは声をかけながら視線を部屋の中へと向けると、言葉を途切れさせた。彼の眼前には、本来ならいるはずのない白衣をまとった女の姿があった。部屋の主が声を発するよりも早く、その女はランスへと言葉を返す。 「失礼だと思ってんなら入ってくるんじゃないわよ」
そんな風に白衣の女、シアンはランスへと暴言を吐いた。にやにやと顔を歪めるシアンとは対照的にランスは不快感を隠そうとはせず、眉間に深い皺を刻んだ。よくみればうっすらと青筋すら浮かんでいるようである。
「あなたに言った覚えはありません」 「でも今はあたしがアポロさんと話してるんですー後から来た奴は黙って出ていってくださいー」
このまま放っておいたら乱闘にすら発展しかねない。ぎすぎすとした空気を出し始める2人を見ながら、部屋の主は大きくため息をついた。
「わたしの目の前で喧嘩しないで下さい……この部屋の物を壊されるのは嫌ですから」
アポロが声をかけると片方は変わらずへらへらと笑い、もう片方は忌々しげに舌打ちをした。とりあえずは落ち着いたようである。その様子を見ながらアポロは再び小さくため息をついた。
「ランスは少し待っていてください。シアンの方が済んだら用件を言いますから」 「……わかりました」 「ほーら出ていけ早く出ていけ」
ひどく愉快に笑いながら言うシアンを睨みつけながらランスは部屋の外へと出ていこうとする。だがそれをアポロが制止した。
「中で待っていてください」 「……え?」
呆気に取られたような声は、シアンから発せられていた。にやついていた表情が少しだけ曇る。
「部外者に聞かせてもいいんですか」 「構いません。それにランスは部外者ではありませんから」 「…………」
シアンが言いよどんだのをランスは見逃さなかった。勘のよい彼はすぐに気がついたのだ。今ここで話されていた内容は、アポロは聞かれてもいいものであるが、シアンにとっては聞かれたくないものであると。
「では中で待たせてもらいます」 「……長引きそうだからあとでもう一回来なさいよ」 「いえ、待てますよ。それにアポロさんが待てと言っているんですよ? だったら待たねばならないでしょう」 「……暇人」
その発言は苦し紛れの雑言でしかなかった。鼻で小さく笑うランスに対し、シアンは笑みを消し無表情でアポロへと向き直る。どうやら相手にするのを諦めたようだった。
(20110403)
[*prev] [next#] |