Love is a leveller | ナノ
 アポロは沈んでいた。それは初対面の人が見てわかるくらい露骨に沈んでいた。

 その理由は1週間前ほどからだろうか、全団員から大変そっけない態度をとられているからである。
 日頃仲のよい幹部たちもどこかそっけない。例えばランスだったら。


「ランス、この書類をお願いします」
「はい」
「………」
「では失礼します」


 このようにランスですらもそっけない態度をとるのだ。よく彼を知らない人が見たらどこがそっけないのかわからないだろうがいつもの彼だったら


「ランス、この書類をお願いします」
「くっ……う…邪気眼が……!おさまれ!出てくるな!(必死に目を押さえる)」
「邪気眼?」
「え、アポロさん邪気眼ネタ知らないんですか?」
「全く知りませんが」
「そんな人に仕事を貰いたくありません、では失礼」
「お前ただ仕事したくないだけでしょう!」


 こんな感じである。
 さらにその部下のマゼンタにいたってはもっとひどい。この間の出来事を例にあげてみよう。


「マゼンタこんなところでサボっていてはいけませんよ」
「ちっ、見つかっ………うわあああ!アポロ様!?」
「叫ぶほど驚くことですか?」
「ごめんなさい駄目なんですわたしの前に現れないでくださいいい!」
「…………」


 と、ものすごくひどいことをいいながら走り去ってしまわれた。

 他の団員たちからも上であげたほどではないがどこか冷たいような扱いを受けていた。


 ―――嫌われ、たのだろうか


 アポロは自嘲ぎみに笑った。
 前首相であるサカキの無き今この組織を束ねるものが部下からの信頼を得られないということは重大な問題である、とアポロは考えている。
 だが突然周りの態度が変わった原因を考えてみたが、かいもく検討がつかない。

 やはりわたしには無理だったのだろうか、サカキ様の後釜など―――
 初めからやめておけばよかった。でしゃばった真似はもうよそう。
 

 コトリ、と手に持っていたペンを置く。そして今まで書いていた大きく綺麗な字で《遺書》とかかれた封筒を机の上に置いた。

 そして先程用意しておいた先を輪にしてあるロープを天井から吊り下げゆっくりと首に――――


* * *


「いやーでも楽しみですね!わたし何回も言いそうになりましたけと、言わなかったですよ!」
「えらいえらい。お前にしちゃあ上出来だ。さて、主役を呼びにいくか」
「はい!」


 マゼンタとラムダは楽しげに会話しながら、アポロの部屋のドアをノックもせずに開けた。共にそういうマナーはなっていないのである。
 だが、二人の楽しげな空気はの部屋のドアを開けて一変した。
 それもそのはず、アポロいままさにが首を吊ろうとする瞬間に出くわしたからだ。


「さようならサカキ様いままでお世話に……」
「うわあああなにやってるんですかアポロ様!!」
「早まるんじゃねえ落ちつけ!」
「もういいんですわたしはおとなしく死にますから生まれてきた間違いをいま清算するんです」
「どうしてそうなるんだ!マゼンタ、止めろ!」
「ラジャー、マゼンタいっきまーす!!」


 マゼンタはものすごい瞬発力で駆け出すと首を吊ろうとしていたアポロの体に、おもいっきり飛びげりをいれた。

 力の法則に従いアポロは後ろへ飛ばされ、綺麗な弧を描いて地面へと着地した。そのとき明らかにいやな音がしたのには目をつぶっていただきたい。


「がは………っ」
「ラムダ様!迅速に任務すいこーしました!」


 すたっと華麗な音をたてて着地したマゼンタと、地面にうつ伏したままぴくりともしないアポロ。


「そこまでやれとは行ってねえ!……つーか生きてるか?」
「え、………だ、大丈夫ですよね!?」
「……………」
「は、犯人はこの中にいる!」
「どうかんがえてもお前だ!!おいアポロ、大丈夫か?」


 ぺちぺちとラムダはアポロの頬を叩いた。
 う、と呻き声を上げてアポロは立ち上がる。


「立った、アポロ様が立ったよ!ラムダ様!」
「アルプスの少女かお前は!?」
「おじーさん!」
「俺はまだおじいさんと呼ばれる年じゃねえ!」


 ショートコントを始める二人をアポロは一瞥し、吐き捨てるように言葉を発した。


「……どうして死なせてくれなかったのですか」
「なんでそんなネガティブな考えになるんですか!ネポロさまって呼びますよ!だいたいアポロ様がいなくなったら悲しすぎますよ!」
「ネポロはないだろネポロは」
「はっ、よく言えますねそんなこと……部下からの信頼を得られないわたしなどいなくてもいいでしょうに」
「お前なにいってんだよ、信頼が得られてない?そんなことねぇだろうが」
「……得られているのならどこぞのしたっぱに話しかけるなと言われるでしょうか?」
「どこぞのしたっぱ……わたしですか!?あ、そういえば言いましたねそんなこと!」
「ほら見なさい」
「もしかしてお前それで嫌われてると思ったのか?」
「…………」


 アポロは黙ったがそれは確実に肯定の態度であった。それをみたマゼンタとラムダは互いに顔を見合せ――――吹き出した。


「え、なにお前それが原因で自殺未遂?ぶあっははは!ありえねえ!」
「かわいいですねアポロ様!はーお腹いたい……それすさまじい勘違いですよ」


 ………は、いまなんといった?
 勘違い?
 腹を抱えてゲラゲラ笑う二人をアポロはぽかんと眺めていた。


「わかりました。その誤解をときましょう、ついてきてください!」


 マゼンタに手を引かれ、アポロは自室を後にする。ぐいぐいと手を引かれ手向かった先はアジトの中でもっとも大きな大広間だった。


「さあどうぞアポロ様!」


 導かれるままにドアをあける、すると――――


「アポロ様お誕生日おめでとうございます!」


 その場にはロケット団全員が集まっていた。
 アポロが見たのは、わっと上がる歓声。パンパンとクラッカーの弾ける音。装飾のされた部屋。それに嫌でも目にはいるくらいどでかいケーキ。


「……は?」
「今日はアポロ様の誕生日じゃないですか!」
「誕生日……?」
「やだ、自分の誕生日も覚えてなかったの?」
「まあそのほうがやりがいがありますがね。サプライズの醍醐味とかが。あ、クラッカーひとつ余ってますよ」
「おいランス、クラッカーは人に向けるもんじゃ……零距離はやめろ!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ面子を呆けるように眺めていたアポロは、ようやくこれが自分のための誕生会であることに気がついた。
 いままで周囲の人間が冷たい気がしたのはこの会をアポロに悟らせないためであった。とくにマゼンタなどは、すぐに顔に出てしまいサプライズであるはずの誕生会がばれてしまうので、他の団員からアポロに会うことすら禁じられていたのである。


「というわけです、アポロ様は嫌われてるわけじゃないですからね!」
「仕事をくれるアポロさんは嫌いですがね」
「お前空気読め」
「そう……だったんですか、はは……」


 乾いた笑いを浮かべたアポロの目には涙が浮かんでいた。その涙に気がついたマゼンタがアポロ様?と声をかけると目からせきを切ったように涙が溢れ出した。


「えええアポロ様泣いちゃった!ほらアポロ様のすきな甘いものですよ!泣き止んで!」
「あやす母親か、というかお前ほんと涙腺弱すぎだろ!」
「そういえばこないだアイス落として涙目になってましたね」
「そのまえは怖がりの癖にホラー映画見て夜ヘルガーにくっついて寝てたわよね」
「ランス様アテナ様。なぜそんな情報が筒抜けなんですか……?」
「で、も今回の、は嬉し泣ですか、ら。しょうがな、いです」


 手で目をおおうアポロに、笑いながらそれを眺める周囲。


「改めましてアポロ様、お誕生日おめでとうございます!」


 その言葉にアポロはふにゃりとした笑みを浮かべ、再び感涙を流した。
生まれてくれてありがとう
 (2010722)
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