Love is a leveller | ナノ
 わたしはあなたを許せません。だって裏切り者ですもの。

 そういったマゼンタの表情は普段のお茶らけた様子からは想像できないような真面目な顔だった。


「質問に答えます。わたしが幹部に気に入られているのは至極簡単なこと、実力ゆえです」
「へえ、大層な自信だな」
「これしか特技がありませんから。わたしは頭も足りないしすぐふざける。普通だったらやっていけないただのゴミです。でもここはそんなゴミを受け入れてくれた、嬉しくて嬉しくて、わたしは本当に救われました。………だからわたしはここに最大の敬意と忠誠を誓いあなたを許しません」


 そういってマゼンタは胸についた赤いRの文字を指差した。
 

「お?闘うのか?」
「はい。わたしは馬鹿ですけどあなたがいけないことしたっていうのはわかります。だから」


 悪い人にはお仕置きしなくちゃ。

 そういって彼女は自らの相棒を出す。青く固い鱗をまとったその龍は気高く咆哮し、自らの敵へと向かった。


「へえキングドラか。珍しいの持ってんじゃん」
「生まれたときからの相棒です」


 やだねぇ、なまじ強い奴って。
 そういって彼は5つのボールを投げ、中から黒くなびく毛並みの忠犬を繰り出した。


「うを、ここいらじゃ見ないポケモンですね。犬っぽくてかっこいい。アポロ様が喜びそうです」
「ホウエンに生息してるグラエナってやつだ。というかお前手持ち1体だけでいいのか」
「なにいってるんですか
あなたごときこの子1体で十分です。ハイドロポンプ!」
「ああそうかよ!グラエナかみくだく!!」


 マゼンタのいった言葉が気にさわったのか彼は5体のグラエナを一斉にキングドラに向かわせた。先にキングドラが放った水流は的をはずし、水しぶきをあげただけだった。そのすきにがぶり音をたて、グラエナ鋭い牙がキングドラの鱗に傷を作る。ぎりぎりと牙が肉に食い込む音がした。


「おや、ずいぶん素早いんですね」
「素早さと攻撃力を重点的に育てたからな。てめえも避けらんねえだろ」
「避ける必要など無いですよ。むしろ近づいてくれて好都合でした」
「な―――」


 彼が言葉を発するよりはやく、青い龍は冷気を発した。一気にその場の温度が下がる。


「――ふぶき」
「くそ、グラエナ!」
「無駄です。みんなかちかちに凍ってますから」
「っ!!」
「ごめんねキングドラ。耐えてくれてありがとう」


 手持ちが一瞬で氷のオブジェと化した様子をみて、彼は踵を返し逃走を試みた。薄情ともとれるが、それは正しい判断だっただろう。だが、


「足、よくみたほうが良いですよ」
「は……?」


 マゼンタの言葉を聞いて彼は足へ目をやる。するとグラエナだけでなく自らの足も凍りつき、動けない状態にあった。


「な、なんで………」
「先ほどハイドロポンプをはずしたのはわざとです。水しぶきを散らせてそれを凍らせる。きっとあなたは逃げ出すと思ったので念を入れておいてよかったです。……これの欠点は凍ってもとに戻すのがめんどくさいことと、わたしにも被害が来ることですがねー。ま、寒さには慣れてるんで平気ですけど」


 そういって凍りついた帽子をぽとりと落とした。マゼンタはぱきぱきとからだの氷をおとしながら彼の元へと歩み寄った。
 彼の目には先ほどまで微塵も見れなかった動揺とマゼンタへの恐怖心が露になっていた。寒さからかそれとも畏怖からか、かちかちと歯をならせている。


「や……やめろ!」
「やめませんよ。さっき言いましたよね《お仕置きします》って。ああ、安心してください殺したりはしませんから」


 今の一言に彼は少し安心し、頭を下げた。だが次のマゼンタの一言にその安堵は一瞬だと悟る。


「そういえば悪の組織の特権って知ってます?」
「……は?」
「それを守らない馬鹿野郎も一名知ってますがね。特権っていうのは―――

 人に対して技を打てるってことですよ。じゃあキングドラ、流星群」


 何てことはないようにマゼンタはキングドラに技を命じた。彼が驚いて顔をあげるとカッと彼の目の前に光が溢れる。


「うわああああああ!!」


 彼は断末魔の叫びをあげて―――失神した。
 その様子を見てマゼンタはため息をついた。


「やるわけないのに……懐中電灯で失神してちゃあ、まだまだですね」


 カチカチと手に持っていた懐中電灯のスイッチを押した。
 そこに懐中電灯があったから、とマゼンタとしては軽い冗談で脅すつもりでやっただけだったのだが、失神されるとは思ってはいなかった。すこしがっかりである。もっと楽しみたかったのに。

 そのときプルルルと、マゼンタのポケギアが鳴った。液晶についた氷の破片を払いながら電話に応じる。


「もしもしマゼンタですー」
『アポロです。始末できました?ずいぶん時間たってますが』
「ばっちりです!そっちはどうですか?」
『愚問ですね、わたしのヘルガーが負けるとでも?』
「さすがですね!あ、こっちにアポロ様が好きそうな犬ポケ5体ほどがいるんですよ。………いまは凍ってますが」
『!!今すぐ氷直し持っていきます』


 ブツリときれたポケギアを眺め、アジトを凍らせた言い訳どうしようか、ああこの人の氷どうにかしないと凍傷になっちゃうや。とのんきにマゼンタは考えていた。

 
これでも一応ですから!
 (2010719)
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