Love is a leveller | ナノ
 とある青年は達成感と優越感に浸りながらアジトの出口へと向かっていた。彼はロケット団の団服を着ているが胸に刻まれた赤い文字に忠誠を示している訳ではない。
 ではなぜその服に袖を通しているのかというとロケット団に潜り込むためである。彼の正体はとある敵組織の工作員であった。
 いま彼はまんまとロケット団の機密情報を盗むことに成功し、より自分を逃げやすくするために応援を呼んで混乱を招きいれ、その隙にまんまと逃亡しようとしている最中であった。

「ちょっとまったこのスパイ野郎!」
「!?」

 今は自分の呼んだ仲間にほぼ全員の団員が応戦していると思っていた青年は、突然自分にかけられた声に驚く。だがその声の主を見て安堵の混ざった乾いた笑みを漏らした。
 ざっ、とそこに飛び出してきたのは1人のしたっぱ。マゼンタの姿であった。

「なんだお前かよ。ランス部隊のマゼンタ?」
「おっとわたしのことを知ってるんですか? どして?」
「だってお前目立つし、というかもう俺がスパイってばれてんのかよ」
「そんなのどーだっていいじゃないですか。嘘ついたら泥棒の始まりですよ」

 なんじゃそりゃ。
 へらへらと彼は笑った。その姿にはもうほとんど任務を達成したからだろうか、余裕がにじみ出ている。

「しっかしこんなぬるい組織ははじめて見たぜ。ほんとに悪の組織なんて名乗れんのか?」
「うーんそれはなんとも言えませんね」
「そこは否定しとけ」
「ぶっちゃけこの組織は楽しくて仕方ないですけどね、私にとっては」
「けっ、信じらんねぇ。ほんとカスみてえなとこだな。幹部だって全然すごくねぇしよ。やっぱりロケット団はもう前のボスがいなくなった時点で終わってんだな」

 その言葉にピクリとマゼンタが反応した。完全に侮蔑にされている言葉に対する不快感を隠そうとはしていないようだった。

「今の発言は取り消していただきたいです」
「ああ?」
「幹部様たちはすごいです。あなたが考えている以上に」
「どんな風ににだよ」
「あ、律儀に聞いてくれるんですね。逃げたりとかしないんですか?」
「正直お前に負ける気しないから。ちょっとぐらい遊んだっていいかなって」
「なるほど納得です」

 そこは納得するところではないと思うのだがそれに突っ込みを入れる人間がこの場には不在なのでこのまま話を進める。

「確かにこの組織はぬるいです。でもここにいるのはちゃーんと能力のある人達ばかりですよ。アポロ様は甘党で泣き虫ですが、サカキ様のいない今しっかりこの組織をしっかりまとめてくれてます。アテナ様は乱暴だけど誰よりも真面目に仕事をしっかりこなします。ラムダ様はドガース厨で演技下手ですが変装や潜入調査とかだったら誰にも負けません。ランス様は……電波です」
「自分の上司だけ酷い扱いだな」
「正直思い付きませんでした。あ、イケメンっていう長所ありましたが」
「長所顔かよ」
「うーん惜しいですね……そのツッコミの力はロケット団にほしい人材です」
「お笑い芸人目指してんのかよここは。……まーいいや、そういや俺お前に個人的な質問あるんだ」
「はい?」

 突然自分に問いかけられて、マゼンタは首を傾げた。だが彼は気にすることなく続ける。

「てめえは何者だ?マゼンタ」
「……は?」
「100歩譲って幹部がすげぇのは認めてやる。だったらてめえは何なんだよ。たかがしたっぱの分際であそこまで幹部たちに気に入られるのには訳があるんじゃねえのか?」
「わたしはただのしがない平社員ですよ。うーむ、仲が良いのは初対面のときのこともあるんでしょうが……じゃあクイズです!《どうしてわたしは幹部と仲が良いんでしょうか!》」
「めちゃくちゃ媚びてるとか……いやそんなことねえよな。あ、夜あいつら相手に腰でも振ったのか?」
「うがっ!? 違いますよ!」

 思わず顔を赤らめて、手をぶんぶんと振ってマゼンタは反論した。

「もー、わたしそういうのに免疫ないんでやめてくださいよ。鼻血出しますよ!」
「意味分からん」
「あっはっは、ではでは気を取り直してクエスチョンです!」
「クエスチョンは質問だ。答えならアンサーだろ」
「えっ………わ、わざと間違えたんです」
「よしわかったお前は確実にただの馬鹿だ」
「本当にもったいないくらいのツッコミの鋭さですねえ………でも」

 すう、とマゼンタは息をためた。
 その時、少しずつマゼンタの目の色が変わりはじめていたことに、青年は気づいていなかった。



 (2010719)
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