Love is a leveller | ナノ
「マゼンタ、先程の書類はできてますか」
「はいランス様。あとこれ次の計画の企画書です」


 てきぱきてきぱき。
 いつもなら仕事に全くといって貢献しないマゼンタとランスだが、今日は違った。いつもの倍速、いや五倍速くらいで仕事をこなしていく。


「相変わらずマゼンタとランス様って土曜日になると仕事が異常に速くなるよな」
「しかも終わったあと二人でどっかいっちまうし」
「2人がつき合ってるって噂は本当かもな。土曜日はデートとかじゃねえの?」
「何いってんのよ!ランス様がマゼンタとつき合ってるわけないじゃない!」
「はいはいランス様信者は黙ってろって」
「なんですって!!」


 そんな風に無駄口を叩くしたっぱたちにも全く気にせず2人はさっさと仕事を片付けて行く。


「よし終わった!時間はまだ5時半です!さあランス様帰りましょう!」
「ええ、ではわたしたちはこれで」


 と、ものすごい勢いで2人は部屋から出ていってしまった。その様子を見たたしたっぱたちが色々な噂を流すのだが、それはあまり関係のない話だろう。
 彼らにとって一週間のうちでもっとも大切な日である土曜日にその話は必要ないからだ。



* * *



「それでさあ、どうしていつも俺様の部屋で録画しに来るんだよ」
「仕方ないでしょう、ラムダさんの部屋のが一番機能いいんですから」
「そーですよラムダ様。素晴らしいものは素晴らしい機器でみなければならないんです!」
「自分で素晴らしい機器を買ってくれ頼むから」


 仕事を終えた2人はラムダの部屋に転がり込んだ。
 録画用のDVDを持ち勝手に録画を始める。いつもの土曜日の風景である。

 毎週土曜日になるとマゼンタとランスが心から楽しみにしといるアニメ《ブラックボックス》が始まる。 
 本来なら幼児向けのアニメなのだが、(年甲斐もなく)2人はブラックボックスを溺愛していた。
 始まってから一度も見逃したことなどないし、録画も忘れたことはない。
 土曜日になると仕事が異常に速くなるのも、残業という妨害によりアニメが見れなくなるのを防ぐためである。
 正直ただの駄目人間でしかないのだが、仕事をしっかりやっているのに文句を言うわけにもいないだろうと他の幹部達は黙認している。
 まあ主に被害を食らうのはラムダなのだが。


「よしキングドラにヤドキング!出ておいで!」


 マゼンタはいつも手持ちであるキングドラとヤドキングをボールから出しながらアニメをみる。
 理由としてはそのアニメの主要メンバーにタッツーとヤドキングが含まれているからである。
 彼らいわくこの2匹がいると盛り上がりが違う、のだそうだが残念なことに誰も理解はしてくれなかった。


「今日はついに悪の幹部ヤドランとタッツー君の戦いですね!ランス様!」
「ええ、わたしとしてはヤドランの方に頑張って欲しいものですが」
「相変わらずランス様はヤドキング側が好きですよねー。タッツー君のかわいさやマリン国の小話にも目を向けてくださいよ!」
「向けてますがやはりあのヤドキングのかわいさには負けるでしょう」


 2人がそんな会話を楽しげにしていると、ついにアニメ放送の時間がやって来た。
 開始1分前になると2人はぴたりと会話をやめ、正座してテレビ画面を凝視する。
 いつもその様子を見ているラムダいわく「1分前の時の目は完全に獲物を狙う獣の目だ」そうである。

チャラッラー、チャラララー


 軽快な音楽がテレビ画面から流れ始める。
 2人のテンションもその時点からものすごく高くなる。
 だがその状態の時に話しかけると「「邪魔だ」」と本気でリンチされてしまう。
 その為ラムダは自分の部屋から出ていき、アニメ終了の30分後まで喫煙室でタバコをふかしているのだ。



* * *



 頃合いをみてラムダは部屋に戻った。
 ドアを開けると耳を塞ぎたくなるくらいの大声で話す2人の姿があった。


「今回もすごかったですね!」
「ラストにヤドランが繰り出したあの破壊光線はどうなるんですかね……!」
「タッツー君やられちゃうのかな!あああはやく来週の土曜日にならないですかね!!」
「しかもなんだか別の敵組織まで動いてるみたいじゃないですか」
「それも楽しみですよね!!」


 ものすごく楽しげに話す2人をラムダは見ながらはやく帰ってくれと心のそこから思った。
 

「あ、ラムダ様いたんですか」
「おやおやずいぶんと薄っすい影ですね」
「お前らここ誰の部屋だと思ってんだ」


 いきなり空気扱いされたラムダははぁ、とため息をついた。


「俺にはこのアニメのどこが楽しいのかわかんねぇよ………」


 ぽつりとラムダの放った一言にランスとマゼンタの目がきらーんと輝く。
 地雷を踏んだとラムダが気づくのは少々遅かったようだ。


「そうですかそうですか……ラムダ様はずいぶんと人生を損していらっしゃるんですね」
「ええまったく。残念な限りです」
「いや!損してないから!俺様めちゃくちゃ幸せだから!」
「安心してくださいラムダ様。わたしたちがたぁぁぁぁぁっぷりブラックボックスの良さを教えて差し上げますよ」
「1話から今のところ全218話……幸い時間もありますし、いつも録画させてもらってるお礼に解説つきで見せてあげましょう」
「ちょっと待、あああああああ!!!」



 その後約1週間ラムダとランス、マゼンタは行方不明となりしばらくしてひょっこり帰ってきたそうだ。
 そのときランスとマゼンタは肌はつるつる血色良好であり満面の笑みで帰ってきたのに対し、なぜかラムダはげっそりと痩せて何かに魂を吸いとられたかのようになっていたそうだ。

 そしてラムダは土曜日になると何かから逃げるかのようにいつもどこかにいってしまうようになった。



 (20100530)
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -