Love is a leveller | ナノ
「ふおおお! 暖かいですね春ですねすばらしいですね!」
「なんだよふおおおって」
「歓喜の叫びですよラムダ様」
「どんなだ」
「春と言えば外に出なきゃ駄目です! だから歓喜を表すために叫びました!」
「まあたしかに気持ちいいわね」
「シュコーー」

 いまマゼンタたちはアジトのそばにある公園に出掛けている。今日はロケット団そのものが休みの日のため全員でピクニックをしているのである。

「お弁当は完璧です!」
「あら、マゼンタが作ったの?」
「そうですアテナ様! わたしにだって女の子らしいところがあるんですよ!」

 そうマゼンタは言うと手に持っていた大きなお重をどさりと下に置いた。

「さすがに七段は作りすぎじゃないか?」
「何を言ってるんですかラムダ様、わたしにアテナ様にラムダ様、ランス様にアポロ様全員を含めたらこれくらい軽いですよ!」
「シュコー」

 にこにこと話し出すマゼンタ。そこで思い出したようにアテナがつぶやいた。

「そういえばランスはどこ?」

 その発言にマゼンタとラムダは固まった。

「なによ2人して変な顔しちゃって」
「……えっと、ランス様だったら……」
「いるっちゃあ、いるよな……」

 ちらり、とラムダとマゼンタは遠くに目線をやる。それをアテナとアポロは目で追って――固まった。

「……シュー」
「……なに、あれ」
「わたしのヤドキングと心底楽しそうに戯れているランス様のお姿でございます」
「あれたぶんランスファンクラブの人間に見せたら泣くぞ」

 そこにいたのは見たこともないような笑顔でマゼンタの手持ちであるヤドキングに頬ずりをしているランスの姿であった。一言でいうと気持ちが悪い。気のせいだと信じたいがバックにはなぜか花畑が見えた。

「なんでランスはあんなことしてるのよ……」
「わたしが今日出かけましょうよ!と誘ったら『マゼンタのヤドキングに触らせてくれるのなら行きます』と条件出されまして……」
「もう誘わなくて良かったじゃない」
「そ、そんなこと言わないで下さいよ!みんなで行かなきゃ楽しくないじゃないですか!」
「とりあえず一般人の目が滅茶苦茶痛いからランスからヤドキングはなしてくんねーか」

ラムダのその一言で、マゼンタは「わかりました!」と、ランスのそばへと駆け寄った。

「ランス様、もうそろそろお昼にするんでヤドキングを離してください」
「嫌ですよ。わたしとヤドキングたんの愛に茶々を入れないで下さい」
「その子はわたしの手持ちです! それにわたしのヤドキングがかわいいのは認めますが『たん』とかつけないで下さい気持ち悪いんで」
「わたしは気持ちいいです」
「本気でやめて下さい。ああほらお昼食べにいきましょうよ!」
「ヤドキングといるだけでご飯三杯は行けます」
「ランス様、お願いですから会話のキャッチボールに応じてください」

そのような不毛な争いを続けたのちに、ヤドキングは強制的にボールにしまわれた。マゼンタはぶつぶつ言っているランスの首根っこをつかみ、他の幹部たちがいるところまでずるずると運んでいった。

「やっと連れてこれたか」
「無理矢理ですけどね」
「あたくしお腹減っちゃったわ。早く食べましょう」
「シュコーー」
「そうですねアテナ様、アポロ様。早く食べましょう!」
「ヤドキングヤドキングヤドキングヤドキング……」
「おーい帰ってこいランス」

 そんな会話をしながらパカリとマゼンタは自身の持ってきたお重を開けた。

「あら、意外にまともじゃない」
「わたしは中には黒焦げの炭が入っていると言う落ちを想像してましたが、違ったようですね」
「ランス様ひどい!」
「シュコーー」
「とりあえず食べようぜ」
「じゃあラムダさん毒……いえ味見をお願いします」
「ランスお前いま毒味って言おうとしたよな?」
「どれだけわたしの手料理をバイオレンスにしたいんですか!」
「シュー」
「あ、でも美味しいわよ」

 いつの間にか箸を進めていたアテナがそういった。

「ほら皆さんどうですか! アテナ様のお墨付きですよ」
「おーたしかにうめえな」
「チッ……」
「ランス様、いい加減怒りますよ?」
「シュコーー……」

 そんな感じでしばらくは時間がたった。だがそこで誰も触れられなかったことを、空気を読まない幹部Aが触れてしまった。

「そういえばアポロさんなんでガスマスクしてるんですか?」

 その一言にランスとアポロ以外の全員がむせかえった。そしてこう思ったと言う。

 言いやがったこの男。

 今まで全く喋っていなかった白服幹部、アポロはその話題をふられて「シュコーー!」となにかをいっていた。正しく言えばしゃべってはいたのだろうが、誰にも伝わらなかった。

「さっきから誰も聞かないんで聞いちゃいました」

 卵焼きを頬張りながら喋るランスに、周りは若干苛立ちをつのらせた。

「シュコーー! シュー!」
「アポロ様、我々にもわかるようにしゃべってください」

 マゼンタがそういうとアポロはどこからかスケッチブックとマジックを取り出した。なぜ持っているのかということはスルーしていただきたい。
 そして文字を書いたスケッチブックを他のメンバーに見せた。

『花粉対策です』
「アポロあなた死ねばいいわよ」

 見せた瞬間アテナの口から辛辣な言葉が飛び出す。そして他のメンバーもなんともいえない表情になる。

「アポロ様花粉症なんですか……?」
「ふつーのマスクで十分だろ。ガスマスクはやりすぎじゃねえのか」
「あ、マゼンタお茶下さい」
「ランス様話ふったくせにもう興味なくしたんですか!」
「やっぱり卵は塩がいいですねー」
「聞いて!」

 その会話をきいてアポロはすぐにスケッチブックに文字を書き始める。

『お前たちは花粉の恐ろしさをわかってないんです! 春はたしかによいと思いますが花粉症の人にとっては悪魔の季節なんですよ!』
「だからあたくしがラフレシア出したらあなたいつも逃げだすのね」
『アテナのラフレシアは兵器に等しいのです』
「失礼しちゃうわね」
『そもそも花粉などこの世から消えてしまえばいいのです……! あれがある以上世界に平和は訪れません! だいたい……』

 すごく真剣に花粉症について語り出すアポロに周りは若干引き始めていた。そこでマゼンタが話を切り替えた。

「でもアポロ様、ガスマスク取らなきゃご飯食べれませんよ」
「シュー……!」

 先ほどからアポロはガスマスクをしているせいで一口も昼食を食べていない。おそらく本人も食べたいのだろうがガスマスクを取って食べるか、取らずに諦めるかで迷っているようだった。

「もうここは腹をくくって食べちゃいましょうよアポロ様!」
「ユー行っちゃいなYO!」
「なんでジャ●ーさん風なんだよ」

 周りが促すとアポロはすっとガスマスクを取った。

「そうですよね。こんなときにガスマスクだなんて無粋でした」
「じゃあ改めて食べましょう!」

 結局、その日は一日中公園でのんびりと過ごした一行だったが、翌日にアポロが花粉の影響で熱を出したのは、また別の話。





 (20100429)
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