Love is a leveller | ナノ
 ランスに薬を使用してから数日が過ぎた。だが、ランスはあの日から一度も他の幹部達の前に姿を見せていない。確認をとろうとしても、全員が大量の仕事を抱えていたことや会いに行ったときにランスが居なかったりなどして今まで会う機会がなかったのだ。
 だが、ようやく仕事の目処がついたためアポロは幹部達を自室に呼び出した。全員の前でランスがどうなったのかを確認使用としたのだが。

「なんで肝心のランスがいないのよ」

 アテナが呆れたと言いたげに首を振った。その様子をみてアポロは眉をひそめる。

「ランス隊の仕事部屋にいるらしいです。……今どうしても手が離せない、と」
「というかなんでお前はあいつに会ってねえんだよ。最高幹部なんだから顔合わせたりすんじゃねぇの?」
「仕事の書類等はメールでやり取りしてますし……顔を会わせる機会は案外少ないんです。それになにより、ランスがあれより悪化していたらと考えたら1人で会いたくなくて……」

 このチキンが、という暴言が2人の口から放たれる。哀愁を漂わせながら俯くアポロを一瞥すると、アテナは話を切り替えた。

「ともかく、ちょうど仕事の区切りもついたことだしランスの事見に行きましょう」
「そーだな。こんなとこでうだうだしてたって始まらないし」
「あ、ちょっと待ってください!」

 そう言って部屋から出ようとする2人を慌ててアポロは引き留める。青筋を浮かべながら振り向いたアテナの表情に、ヒッと悲鳴を上げ、小声で「伝えておきたい事があります」と呟いた。

「なによ早く言いなさいよチキン」
「チ……、いえ、ランス隊のしたっぱの事なんですが」
「したっぱの奴らがどうかしたのか」
「ランスに薬を注射した日からアジト内であまり見掛けなくなったんで気になりまして。この間、1人だけ見かけて声をかけたのですが上の空で、そのまま吸い込まれるようにランス隊の仕事部屋に入ってしまいまして……なにかあったのではないかと」
「アポロがうざいから無視しただけなんじゃないの? それか存在感無いから気づかなかったとか」
「……え」
「あーはいはいそいつは心配だな! きっとなんかあったんだよ! だから泣くなって!」
「うざ、存在感……そんな……」
(うぜえええ)

 いつも通りの不毛な争いを繰り広げながら、一同はアポロの部屋を後にした。





「ランスはどうなってると思います?」
「そりゃまあ……理想は仕事をしっかりこなしてくれる真面目な奴になってくれるのが1番いいな」
「でも元の性格があれだからねぇ。もしかしたらもっと酷くなってるかも。どうする? ランス隊のしたっぱ全員がランスみたいになってたら」
「やめろ想像しただけで胃が消失しそうだ」
「そうなったらもうこの組織はおしまいですよ」
「……おい、アポロにアテナ。あれなんだと思う」

 雑談を交わしながらランスの仕事部屋に向かう彼らは、廊下の隅に見慣れないものを見つけて、立ち止まった。全体的に黒っぽい服装、落ちている黒い帽子。うつ伏せになってはいたが、横たわっていたのは紛れもなく。

「マゼンタ……よね」
「なにやってるんですかね、あんなところで……」

 横たわるというより倒れているといった方が正しい。そこにいたのはマゼンタだった。ぴくりとも動かないマゼンタを不振がった幹部達は、倒れている彼女の元へと向かった。ぐいっ、とラムダがマゼンタの体を起こすも、いまだに動く気配はない。

「おい、マゼンタ……ってこいつ爆睡してんじゃねぇか」

 マゼンタはすーすーと寝息を立てて眠っていた。

「呆れた。いぎたない子だとは思ってたけどここまでとはね」
「せめて仮眠室にくらい行ってほしいですね」
「しゃーねぇな。おいマゼンタ!」

 ぺちぺちと軽く頬を叩き、ラムダはマゼンタを起こそうとした。よく見ると、目元には深い隈が刻まれている。少しだけ不思議に思いながらラムダは頬を叩き続けた。
 ん、とマゼンタは小さくうめき声をあげ、うっすらと目を開いた。目ぇ覚めたか、と話しかけようとした次の瞬間、マゼンタはカッと目を見開き、大きな悲鳴を上げた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! もう逃げたりしないから、逃げださないから!」
「……は?」

 謝りながら亀のように体を丸めて謝るマゼンタをみて、幹部達は目を丸くした。状況が飲み込めずない彼らの前で、以前としてマゼンタはごめんなさいごめんなさいと謝り続けている。

「マゼンタ……?」

 ラムダが小さく名前を呼ぶと、マゼンタはぴくりと反応し、頭を上げる。安堵したような、困惑したような表情がそこにはあった。

「あ、あれ……ラムダさ、アポロ様にアテナ様……?」
「マゼンタ、どうしたのですか。なにをそんなに怯えているのです」

 アポロがそう訊くと、マゼンタはぼろぼろと涙を溢した。驚く幹部達に気を回す余裕が無いのか、マゼンタはしゃくりをあげて泣き出した。

「ら……ランス様が……、ランス、様がランス様じゃなくなっ、ちゃったんですよぅ……」
「ランスが? マゼンタ、その話をもっと詳しくしてくれない?」
「あ、あのですね……」

 マゼンタは目元を擦りながらすん、と鼻をならした。事の次第を話そうとしたその時。

「戻りなさい、マゼンタ」

 鋭い声がその場に響いた。その声を聞いたマゼンタがその場で硬直する。マゼンタ以外の3人が声の主の方へ一斉に向き直る。彼らの視線の先には。

「……ランス?」

 冷たい眼差しをした、ランスの姿があった。






 (20110716)
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