『お前らが盗ったのかァァァァ!!』 「ぎゃああああああああ!!!」
ラムダの体からこの世のものとは思えない濁声が聞こえたと思えば、ゆっくりと動いていた体がものすごい早さでこちらに這ってきた。
今まで固まるしかなかった彼らも、その様子には全身の毛が総立ちした。そしてアジト全体に響くのではないかという悲鳴を上げたのだった。
もうだめだ
そう思い全員が目を閉じたその瞬間。
―――パシャ!
どこからかシャッター音が響く。怖々と目を開けるとそこには……
「ひゃひゃひゃ! ドッキリ大成功ってか! やりましたねラムダ様」 「してやったり、だな」
目の前にはラムダ隊のしたっぱ。手にはカメラを持っている。 状況がつかめないマゼンタ達を置いてきぼりにして、首のないラムダの体が起き上がった。そして服の中に収納する場所でもあったのだろうか、今まで出ていなかった頭をすぽっ、と覗かせた。
「さて、俺は撤収するかな。ひゃひゃ!」 「おう、サンキューな」 「ランス様そっちは任せました」 「了解」
何事もなかったかのように部屋から出ていこうとするしたっぱの首をマゼンタが、ラムダの首をランスががっちりとホールドする。いつもの二人からは想像できないような素早さであった。マゼンタはぎりぎりと首を閉めながら質問をする。
「さて説明をお願いしますお二方?」 「はっ……マゼンタ、お、まえホントに女か、よ。腕力おかし、いんじゃ、ね」 「へし折んぞこのくそ野郎」 「てめ、ら手ぇだ、すの早すぎだろ……」 「わたしのペースを崩した罪は重いですよラムダさん」 「ランス様安心してくださいあなたはいつだって電波ですから」
本気で怒っているのかランスとマゼンタには表情が全くなかった。 その様子を見てラムダ達は流石にはまずいと思ったのか、必死に弁解を始める。
「まず正座をお願いします」 「はい」 「すいませんでした」
下をうつむき正座をする二人には酷く哀愁が漂っていた。
「まず説明を」 「言い出しました。演出は俺です」 「やりだしたしました。マネキンの首を用意して暗闇に紛れて簡単にとれるように装着しました」 「声はラムダ様の体にマイクつけて俺が変声機で喋ってました」 「それに合わせてました」 「全く……なんでこんなことしたんですか」
その質問にしたっぱは口ごもる。ちらり、とラムダに目をやると小さくため息をはいた。
「だってあんたら、俺らしたっぱに仕事押し付けて遊んでっから………」 「うっ」 「んで俺がぶつくさ言ってたらラムダ様に聞かれて」 「……こいつの言ってることは正しいし、最近だらけすぎだから灸を据えようと思ったんだよ」
そのしたっぱの言っていることは尤もだった。予想外の正論にどことなく気まずい雰囲気が流れる。 なんと返せばいいのかわからなくなったマゼンタは自身の上司に助けを求めたが、残念なことに彼女の上司は彼らについての興味を失い先ほどラムダ達が使用していた変声機で遊び始めていた。
『犯人は……お前だっ!!』 「やると思ってましたよ。仕方ない、アポロさ……ま」
ランスと会話するのを諦めたマゼンタは今まで放置していたアテナとアポロに話を振った。そして目を見開いて固まる。
「アポロ様が半分昇天してる!」 「なに馬鹿なこと言って……ああああ!!」 「そんなに怖かったんですか!」 《さようならサカキ様……貴方を見付けられなかったのが唯一の心残りです……》 「心残りがあるんだったら死ぬなって!」 「寝たら死にますよアポロ様! かえってきて!」 《なんだかとても心が軽くなりました……宙に浮かべるような気分ですよ……》 「浮いてるし若干透けてる!」 『パトラッ●ュ……僕、とっても』 「眠くなあああい!」 「変声機まで使うな!!」
アポロの顔面を叩き続け、なんとか彼の昇天を防いだ一同であった。
その後、彼らは職務怠慢をせずに真面目に働いたそうだ。しばらくは。
【おまけ】
「はー、怖かったですねアテナ様!」 「……………」 「あれどうしたんですか、へたり込んじゃって? さっきから全然喋ってませんし」 「…………のよ」 「え?」 「………腰がぬけちゃって立てないのよ」 「アテナ様が………! かわ」 「早く手貸しなさいよ!!」
(2010822) |