Love is a leveller | ナノ
「と、ガラスを引っ掻きながら呟く血塗れの女が…………」
「ぎゃああああああああもう無理ですアテナ様やめてェェェ!!」
「お前の声と顔の方がが怖い!! なあアポ……って何やってんの」
「全身にお経を書いてるんです、これで安心」
「耳なし芳一かお前は!!」
「というか服の上から書いて意味あるんですか?」
「はっ……!」
「ランス煽るな! アポロも脱ごうとすんじゃねえ!」


 一同は怪談話の真っ最中である。
 相も変わらず暇人な彼らはアジトの一室に引きこもり、部屋を薄暗くし音を遮断するという徹底ぶりで怪談を楽しんでいた。


「アテナ様の話は怖すぎますよ………」
「全くです」
「あらそう?」
「というかアポロとマゼンタは何で怖がりの癖に怪談に参加してんだ」
「ラムダ様わかりませんか……怖いけど、見たい聞きたい……」
「怖いからこそ、見たい聞きたい………矛盾しているこの感情………」
「その矛盾、それが人間の運命というものです」
「息ぴったりだな、というかランス。運命をさだめって言うな」
「何いってるんですかラムダさん厨二病は世界を救うんですよ」
「もういいお前に常識を求めた俺が馬鹿だった」


 会話を諦めたのか、ラムダは後ろを向いてしまった。
 周囲はさほど気にする様子もなく、互いの会話を続ける。


「アテナ様は終わりましたし……他に誰か怖い話する人いませんか?」
「じゃあわたしが」
「えっ、ランスあなた怪談なんてできるの?」
「意外ですね……」
「わたしはやればできる男なんです」
「自分で言わないでくださいランス様」
「まあそれは置いといて、これはわたしが実際に体験した話なんですけど………」


 まともに話始めたランスに若干関心しつつ、彼らはランスの話に耳を傾けた……


* * *


 わたしが仕事を終えて、アジトの廊下を歩いていたときのことです。

 いつも明るいはずの廊下は、なぜか薄暗くどんよりとした空気が漂っていました。

 そんなことは気にも止めずわたしは自室へ向かっていたんですが………


「ランス様」


 と、突然声をかけられました。
 人の気配なんてしなかったのに、と思い振り替えると後ろには無表情の男のしたっぱが立っていたんです。
 わたしもある程度長い間ロケット団にいますが、彼の顔は見覚えがありませんでした。


「お届け物です」


 そのしたっぱは抑揚のない声でそういうとわたしに小さな封筒を渡してきました。
 その袋はわたしがよくアポロさんにもらうものなんですが、なぜか渡された封筒はいつもの何倍も重かったんです。

 その封筒をまじまじと見ていたら、いつの間にかそのしたっぱは消えていました。

 少し気味が悪くなって、わたしはその場から離れました。なんだかいつもより体が重くなった気もして……

 しばらく歩いてから先ほどのしたっぱから貰った封筒の中味が気になり、開いてみたんです。

 そうしたら………


* * *


「その中にはいつも入ってる筈の1000円札はなく、大量の小銭が……! わたしの給料袋にはなぜか920円しか入ってなかったんです!」
「どうせそんなことだろうと思ってましたよ、どこが怖い話ですか!」
「給料が減る怖い話!」
「わあすごくいい笑顔」
「……ねぇランス、それいつどこでおきた話?」
「2ヶ月前の地下1階、資料室らへんですが」
「ランスがいってる廊下って確か電灯きれかけてたわよね、それにその時梅雨だったから湿気が隠るのは当たり前じゃない?」
「したっぱに見覚えがないって、ランス様は基本的に人の顔覚えないじゃないですか! 人の気配だってわたしが目の前にいたって気づかないときもあるのに!」
「普段働かないものに給料を与えないのはあたりまえです」
「寒気の原因は温度的なものでしょ、なんだつまらない」


 やはり彼はいつも通りの変人であった。あまりに下らない話に周囲からの批評が飛び交う。
 彼の怖い話は周囲の人物によって完全に否定されてしまった。


「もー……ラムダ様からも何か言ってあげてください!」
「……………」
「シカト!? ラムダ様がツッコミを放棄したらこのシリーズのバランスはどうやってとるんですか!」


 いつもなら真っ先に突っ込みを入れるラムダなのだが、先ほどから全く反応がない。
 マゼンタが話を促しても完全に無視である。


「…………」
「ラ、ラムダ様……?」


 さすがに様子がおかしいのを察知したマゼンタは、後ろをむいたラムダの体をゆさゆさと揺らした。
 すると


 ――――ゴロン


 と、ラムダの頭が落ちたのだ。


「え!?」
「は」
「あた、まラムダ様のあたま、おち」
「――――――」


 各自がそれぞれのリアクションを浮かべるなか、首を失ったラムダの体はゆっくりとうつ伏せに倒れた。一方、落ちた首は依然として床に放り出されたままである。
 するとどこかから地の底から響くような声がした。


『あーあ……とれちまったなァ……』


 ずる、ずる、
 その声が聞こえたとたんラムダの体がほふく前進をするような形でこちらに向かって動き出したではないか。

 一同は、信じられない光景に固まることしかできなかった。

 するとまた先ほどのような声がする。


『首……首がない……』


 うわ言のように呟くと、ラムダの体はぴたりと動きを止めた。
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