「ついたどー!えっと荷物はここでよろしいですかアポロ様!」 「ええ、そこにお願いします」 「それにしてもずいぶんいいところにキャンプ場所とれたな」 「景色もいいわね」 「まあ本気出しましたから」 「財布の本気ですか?」 「……………」 「ランス、そこは触れないでくれ」
今年の慰安旅行には海と山の二ヶ所に行くことになった。 まず先にアポロの提案である山に行き、一泊二日のキャンプをする。次に日帰りでラムダの提案である海へいく、といった感じてまとまった。 というわけで今はとある山にテントを張り、夜に行う予定のバーベキューの準備をしている所である。
「やっぱりキャンプの醍醐味はバーベキューですよね!!えーっと調理班は………」 「俺様とランスだ」 「え、ラムダ様はまだわかりますが……ランス様料理出来るんですか」 「微妙、だな」 「どうして任命したんですか!!」 「平等にくじをしてだな……」 「料理センスは平等にできませんよ!」 「ほら以外に上手いかもしれないだろ」 「なぜそんなハイリスクなことを!? 第一わたし前にランス様がスイカにケチャップかけてるのみましたよ」 「きっとそれは幻覚だ」 「なわけないじゃないですか!!」
ぎゃあぎゃあそんなことを話しているうちにランスは勝手に料理を始めた。 いつの間に着たのか彼はヤドンのロゴのはいったエプロンをつけている。意外にも形から入るタイプのようだ。
「野菜炒めの味付けは胡椒でいいですか?」 「えっランス様料理出来たんですか!?」 「まぁそれなりには」 「ほら見ろ俺様は正しいじゃねぇか。じゃあ不安が祓えたところでマゼンタ。お前に仕事をくれてやろう」 「えー………」 「働かざる者食うべからずですよ」 「日頃誰よりもさぼってんの誰だよ」
ラムダは小さくランスに突っ込みを入れると小さな紙切れをマゼンタに渡した。
「なんですかこれ?」 「そこに書いてある場所で千円で魚のつかみ取り出来るんだ。取り放題だから沢山頼んだぞ」 「な、なぜわたしが……」 「男だと五千円かかるんだよ、勿体ねぇだろ」 「差額四千円ってもはやそれ詐偽じゃ……」 「女はそんなに沢山とれないからな。こんな大役はマゼンタにしかできないぞ、お前だからこそまかせられるんだ」 「はっはっはーお任せくださいラムダ様!百匹くらいとってきます!余裕くしゃくしゃです!」 「綽綽な、あとそんなにいらない」
上手く口車に乗せたラムダは大きなクーラーボックスを二個ほど持たせマゼンタを送り出した。
「うまくのせましたね……」 「おーアポロ。テント張り終わったか?」 「完璧です」 「そういえばアテナさんはどうしたんですか?」 「アテナが準備に参加するわけないだろ」 「それもそうですね」
もはやこの組織でアテナはその権力ゆえに準備等の仕事をしないというのは当たり前になっていた。だが残念なことにその事を彼女に注意できる勇者は誰もいないのである。
* * *
「それじゃあ早速」 「食うとすっか!」 「待ちくたびれたわ」
準備も終わりバーベキューが開始した。すでに日は傾き、涼しげに過ごせる時刻へと変わっている。
「うげ、ピーマン嫌い……」 「好き嫌いしてんじゃねえよマゼンタ、大きくなれないぞ」 「お、お母さん勘弁してください」 「誰がお母さんだ、おいアポロ人の皿に野菜のせるな! バランス良く食えって!」 「いえ私はもやししか食べれませんので」 「アポロさんそれ共食いっていうんですよ」 「…………!」 「あー泣くな泣くな、ほら悔しかったら野菜食え!」 「………主夫みたいよね、ラムダって」
そんな会話をしながら時間は楽しげに過ぎていった。 夏の山特有の冷たいようなぬるいような風が彼らの間を吹いていく。風の中に微かに香る新緑のにおいが新鮮だ。 いつのまにかとっぷりと日は暮れてしまった。
その後はつまみを食べながら酒を飲んだりマゼンタが持ってきたロケット花火を打ち上げたり、キャンプファイアをしたりなどして、彼らはキャンプを満喫した。 そのうちテンションの上がったマゼンタがロケット花火を人に向けて発射し、アポロの服に火がつくという事件があった。 マゼンタは大慌てでアポロの消化活動をした後、頭にアテナに殴られてついた大きなたんこぶをのせるはめになった。
※火の使い方を誤ると大変なことになるので絶対に真似しないでください。
* * *
その後、自身でとった魚を頬張りながらマゼンタ聞いてはいけない質問をした。
「そういえばわたしずっと疑問だったんですけど……この世界の肉ってポケモンなんですかね?」 「それは聞いちゃいけないだろ」 「でも調べたらこの世界で食べてる肉とかはポケモンじゃないらしいですよ」 「あらそうなの?」 「不用意にそんなこと言うなよ、信じる人が出たらどうするんだ」 「動物とポケモン一緒に出すと混乱するから出してないだけで食用には動物を使ってるとか……」 ※あくまでこのシリーズのみの設定です 「たしかにミルタンクと普通の乳牛が並んでたらシュール極まりないですよね」 「じゃあこれとかは普通の鶏肉なんですね!」 「そういえばこの肉とか仕入れたのランスでしたよね」 「あら、なんかいつも食べてる肉と歯応えが違うわ」 「こっちのピンクのやつ………かまぼこか? 甘くてうめえ、なんだこれ?」
その質問にふふん、と満足げにランスは鼻をならした。
「いまマゼンタが食べてるのはカモネギの肉、アテナさんが食べてるのが高級鶏肉、ちなみに金はマゼンタの財布から抜き取りました。ラムダさんとアポロさんが食べてるのがヤドンの尻尾スライスです。おかわりなら山ほど………ちょっと落ち着いてくださいいやいやそんな尖ったものもってきたら危な」
(2010728) |