短編小説 | ナノ
「……もうすぐ春だねえ」
「うんそうだね」
「団子の美味しい季節になるねえ」
「ナマエは春だろうと冬だろうと団子食べてるじゃないか」
「だってここの団子、ほんとに美味しいんだもん!」

わたしとマツバはエンジュシティのお茶屋さんにいる。彼はお茶をすすっているだけだが、わたしは何皿も団子を食べ漁っていた。

「もうここの団子ってどうしてこんなに美味しいのかなー。おばさん三色団子おかわり!」
「ナマエまだ食べるの?」
「全然余裕よ! 本当にエンジュに生まれてよかったとわ。こんなに団子の美味しい町は無いよ? マツバも一本どう?」

はい、と後ろに座るマツバに団子ののった皿を差し出すと「見てるだけでお腹いっぱいだよ」と断られてしまった。
今わたしたちは背中をあわせるように座っている。隣に座るより背中を向けあった方がなぜか安心する。少し変だが、わたしたちはこんな関係をずっと続けている。友人以上、恋人未満といったところか。

「気温も高くなってきたし、花見の季節も近いね!」
「ナマエの場合は花より団子でしょ。でもカントーでは雪降ったらしいよ」
「そこは反論しないけどね。へえ、カントーはそんなに寒いんだ」
「こっちもまだ寒いと思うけどなあ」

マツバが自分の首に巻いてあるマフラーを巻き直した。

「マツバが寒がりなだけで……」

そこまでいったところで、ビュウと冷たい風が吹いた。

「マ、マツバが寒がりなだけでしょ!」
「唇むらさきになってるよ。だいたいまだ3月の半ばなのになんでノースリーブできたの」
「だって晴れてたし!」

朝に天気予報をみたら今日は20度って言ってたのに! わたしは自分の腕を擦って体温を上げようとするが、効果はあまりなかった。というかなんで後ろ向いてるのにわたしの唇がむらさきなのがわかるんだ。そうかあの目か、千里眼のおかげか。なんだか悔しい。千里眼って卑怯だ。

「まったく……強がりなんだから」

後ろからマツバの呆れた声がする。ちくしょう、自分はマフラーまでつけてるくせに。そう思ったそのとき、 ふわり。とわたしの首になにかが巻かれる。それと同時に背中に伝わるあたたかい感触。

「これで少しは暖かくなった?」

先程まであったお互いの隙間がなくなり、背中合わせになる。そしてマフラーを2人で共有している形になる。

「え……あ………うん」

突然の出来事にわたしは頭がついていかずに、ものすごい生返事をしてしまった。マツバはそんなわたしとは裏腹に何事もなかったかのようにお茶をすする。

「団子食べないの?」
「………食べる」

今ほんとうにお互いが背中合わせの状態でよかったと思う。こんなに真っ赤になった顔を見られたら恥ずかしさで火が出てしまうだろう。いや、千里眼があるから意味がないのかも知れないが、気分的には全然違う。

「マツバって隠れたらしだったんだ……」
「ナマエ? 聞こえてるよ?」
「ごめんなさい」

まだ顔の熱が引ききらないわたしの後ろから「あ、桜の蕾」とのんきな声がした。





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