短編小説 | ナノ
(手の冷たい人って心のあったかい人なんだって。じゃあランスはロケット団で1番冷酷なんだから手はあったかいんだよね。ちょっと確認させて下さいな)

 ナマエの発言に呆れ顔を浮かべたのは数分前の話。下らないとばっさり切り捨てたのだが、しつこく懇願してくる。正直、仕事の邪魔である。

「ちょっと触らせてくれるだけでいいからさ」
「嫌ですよ。なぜそんなに私の手にこだわるんですか」
「だってランスは肌の露出が全然無くて、お触りできないじゃん。いい機会だなと思ってさ」

 "お触り"という言葉に若干の寒気を覚えながら大きなため息を吐いた。どうせこの女は私がなんと言おうと引く気など毛頭無いのだ。そう考えると断り続けるのも不毛に感じ、しぶしぶ右手の手袋を外した。早く済ませろと思いながら空気に触れた右手を差し出す。
 するとナマエはにんまりと嬉しそうな笑みを浮かべ、私の手をとった。すると彼女は、私の手を握りながら少し残念そうに呟いた。

「冷たい……ということはランスは自称冷酷だったんだね。いやあ勉強になったなぁ」
「ふざけるな」
「あっ痛い痛いつねんないで、いやほんとに痛い!」

 理不尽な言動に腹がたったので、左手でナマエの腕をつねりあげてやった。彼女は痛い痛いと喚きながらつねった場所を擦っている。そのうち恨みがましい目できっ、と睨み付けてきた。さほど強くしたつもりは無かったのだが。

「この冷酷男め」
「それはどうも。今ので気が済んだでしょう。ではまだ仕事が残ってますので」

 付き合う義務などない、さっさと離れてしまおう。先ほど外した手袋を嵌め直そうとした。
 すると、がしりと腕を捕まれる。手は外気に晒されたままだ。小さくため息を吐いて視線をナマエへと移す。

「まだなにか……」
「えい」
「……!」

 突然ナマエは、自分の頬に私の手を押し付けた。ぺちりと小さく音がなる。
「……本気でなにがしたいんですか」
「んー、ランスの手があったかくなるようにしてるの。人の腕を思いっきりつねるような奴が心があたたかいはずないからね」
「その情報がガセであるとは認めないんですね……」

 手の平からじわじわと体温が伝わる。指先にさらさらとした髪の毛が掠める。自分とは違う肌は温かく、そして柔らかかった。

「手、大きいね。厚いし。綺麗な顔しててもちゃんとした男の人の手だ」

 すり、と頬をすり付けてくる。まるで甘えているようで、その姿は子供の動物を連想させた。

「あ、少しあったかくなってきた。よーしもっとやってランスを正真正銘の冷酷にしてやる」

 先ほどまで指先まで冷えきっていたのに、今ではナマエの体温で少しだけぬくい。手と頬に挟まれた私の手は、いつの間にか彼女の顔の形にあわせるようになっていた。《仕事が残っているからもうやめろ》何故かそう言い出そうとは思わなかった。まあ、彼女の気がすむまで待てばいいだけの話だ。

 今日何度目になるのかわからないため息をつきながら、指先に触れる髪の毛を、少しだけ撫でた。





旬さま相互記念
 (20110320)
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