短編小説 | ナノ
 ランスさんと連絡が取れなくなってから一週間が過ぎた。何度電話しても出てくれないし、メールをしても全く返信がない。家を訪ねても居る気配はない。彼と付き合っているわたしとしてはとても心配だ。
 そんなふうに考えていたわたしは今日ランスさんと会った。

 テレビの画面の中で。

 思わず持っていたコップを落としてしまうぐらいの衝撃だった。何とランスさんは指名手配犯としてテレビで報道されていたのだ。
 先日コガネで騒ぎを起こしたロケット団。ランスさんはその幹部として顔写真を載せられていた。ニュースではいま全力でランスさんとその他の幹部を探しているそうだがいまだに誰一人として見つかっていないようだ。
 今まで連絡が取れなかったのはこれのせいだったのか。そう思うと同時にわたしは騙されていたのではないかという疑念が浮かんだ。
 今までの優しかった彼は偽物だったのではないか。思わず涙腺がゆるみ、ぽろりと涙がこぼれた。
 
 するとガンッ!と家のドアに何か重いものがぶつかるかのような大きな音がした。涙をぬぐい急いで玄関へと向かい、警戒しながらドアを開ける。するとそこにいたのは、

「ランスさん!?」
「……ッ、ナマエ………」

 ドアに倒れこむように寄りかかっていたのは今わたしの思考の大半を占めるランスさん張本人だった。
 ランスさんは大変憔悴している様子で、腕からは若干の出血も見られた。

「と、とにかく中へ!!」

 わたしはランスさんの体を引きずるようにしながら家の中へと招き入れた。

* * *

「……理由を聞かないのですか」

 無言で治療をしていたら突然ランスさんが口を開いた。
 いやまあ聞きたいけど……。

「だってランスさん凄く疲れてるじゃないですか。無茶させちゃいけませんから」
「これくらい無理のうちに入りません。第一わたしが怖くないんですか……貴方だって見たでしょう。わたしが指名手配犯として報道されているのを」
「確かに見ましたけど……ランスさんの姿をみたら怖いとかそんな気持ち吹っ飛んじゃいました」

 へにゃりと笑ってみせるとランスさんはふ、と失笑してしまった。失礼だなあもう。そう思っているとぼそりとランスさんは口を開いた。

「本当はもっと前に貴方との関係は終わりにする予定でした」
「え………」
「でも貴方といるのは心地がよくて、どうしても別れようと言えませんでした。そのまま作戦当日を迎えてこのざまです」
「それって―――」
「今日もとっさに頭に浮かんだのはナマエだけでした。途中で連絡をとろうかと思ったんですが警察の目をごまかすために連絡手段はすべて断ってましたし……何も報告できなくてすみません」

 すこしうなだれながらランスさんはわたしに謝った。
 だから今まで連絡がとれなかったのか。んん?でもよく考えると――――

「なに笑ってるんですか……?」
「ふふ、ランスさんがわたしを裏切ったわけじゃないと思ったら凄く、嬉しくて」

 本当に嬉しい。彼はわたしを大切にしてくれている。そう思うとさっきランスさんを疑った自分を恥じたくなった。

「それじゃあわたしは手当てが終わったらすぐに出ていきます。ありがとうございました」
「なんでですか?」
「わたしはもう指名手配の犯罪者なんですよ?そのわたしと一緒にいたらあなたまで――」

 ランスさんが全部言い終わる前にわたしはランスさんの口を自身の口でふさいだ。ちゅ、と軽いリップ音。
 ランスさんは心底驚いた風に目を見開いていた。

「ランスさんとならどこでもついていきます」
「……逃げ回る生活になるんですよ?迷惑じゃないんですか」
「愛の逃避行といってくれますー?迷惑なんかじゃありませんよ。だってランスさんと会えないこの一週間ほんとに寂しかったんです。もうあんなのいやですから」
「ふん……どうなっても知りませんからね」

 ふてくされているようなランスさんの顔がどこか嬉しそうなのをわたしは見逃さなかった。




この切なささえも、擁きしめて




「どこ逃げます?とりあえずイッシュ地方にでも行きますか!」
「ナマエ、あなた観光と間違えてません……?」





企画freesia様に提出。
苦労しましたが大変楽しく書かせていただきました。本当にありがとうございました!

 (20100608)
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