短編小説 | ナノ
 今日は女の子なら誰しも盛り上がるバレンタイン。
 ほかの女したっぱ達が楽しそうにバレンタインの話をしているのをナマエは冷めた目で見ていた。

「けっ……彼氏とか渡す相手がいる人はいいよね」

 軽くやさぐれてアジトの廊下を歩くナマエ。

「バレンタインなんて勝ち組と負け組を決定するだけの日じゃん……」

 彼氏のいないナマエは少しばかり哀愁を漂わせながら呟いた。

「いいもん! 友チョコもらえたし! あげる相手がいなくたって別に!」

 ナマエは開き直って先ほど女したっぱの友達からもらった友チョコを食べ始めた。

「あ、美味しい」

 そのチョコはビター風味の生チョコで口の上でとろけるような食感があった。

「あの子……やるなあ」

 こういうチョイスができる子がもてるのだろう、としみじみ考えていると後ろから聞き覚えのある声が響く。

「なにをぼーっと突っ立ってるんですか」

 ……この声は。

「こんにちは、ロケット団一の勝ち組ランス様」
「はあ?いきなり意味のわからないことを言うのはやめなさい」
「その紙袋一杯のチョコをみて、勝ち組と言わないやつがいるんですか」

 ランスの両手には大きな紙袋、そしてその紙袋から溢れださんばかりのチョコがみえた。

「これだけじゃなくて部屋の前にも山のようにチョコが積んであったのですが……」
「嫌味ですかそれは」

 なげやりにナマエは言う。
 この上司は性格こそ悪いが、顔は相当整っている。
 黙っていればかっこいいのにな、とナマエが考えていると突然ランスがナマエにたずねてきた。


「貴女はくれないんですか?」
「なにをです?」
「決まってるじゃないですか。チョコレートです」

 なにをいっているんだこの人は。
 その両手いっぱいのチョコの山ではまだ足りないと言うのだろうか。

「まだ足りないんですか? そんなにチョコ貰ってるのに」
「なにをいってるんですか、わたしは貴女から貰いたいんです」

 え、なんだって。
 あたしから貰いたい…?
 それってもしかして……

「貰うだけ貰ってわたしのズバットにあげるので」
「ランス様、あたしのときめきを返してください」

 にやりと嘲笑うようなランスの笑みが見えた。
 ちくしょう、騙された……
 ホントに性格悪い。自分の部下からかってそんなに楽しいか。

「では冗談は置いとくとして」

 とランスは話を持ち直す。
 え、どこまでが冗談なんですか?

「チョコ持ってるじゃないですか。それくださいよ」
「だ、ダメですよ! これは友達からもらった貴重なチョコなんですから!」
「へぇ……断られるとなおさら欲しくなりますね」

 子供ですか! と軽くツッコミを入れる。

「ほら、他人のものって自分が持っているものだったとしても欲しくなるじゃないですか」
「性格悪っ!」
「これは上司命令ですよ。はやく渡しなさい」

 ………上司命令って、そういうの職権乱用って言うんですよ!
 このチョコだけはあの緑の悪魔から死守しなければ……!
 じゃないと2月14日という日にいい思いでなんて無くなっちゃうじゃない!

「はぐっ」

 ナマエは箱に入っていた生チョコを、一気に口に詰め込んだ。

「全部食べましたね……」

 ふふふ……
 チョコを食べ終わってしまえばランス様といえども手出しはできまい!!
 するとすこし忌々しげにランスは「美味しいですか?それ」と聞いてきた。

「それはもうとてつもなく美味しいです」

 むぐむぐと口を動かし、勝ち誇ったようにナマエは言う。

「生意気な。わたしの言うことが聞けないなんていけない部下ですね……少し躾をしてあげますよ」

 にやり、と口角を歪めナマエに迫ってくるランス。

「え、ちょっと躾ってなんですか」

 ずりずりと後退するナマエとじりじりと追い詰めていくランス。
 そしてナマエは廊下の隅っこに追い詰められた。後ろには壁、身動きは取れない。

「もう逃げられませんね……ナマエ」
「ラ、ランス様大人げないですよ!」
「なんとでも」

 冷たい眼差しをランスに向けられナマエは完全に畏縮してしまう。

「貴女、まだ口の中にはチョコが残っていますか?」
「……え? ああ、はい。まだ微かに味がありますが」

 なぜその話をするのだろうか? 言葉の意図が読めずにナマエはびくびくしながらランスを見た。

「ならいいのです」

 そういってランスはナマエの唇に自らの唇を重ねた。

「ッ!」

 目の前には見慣れた整った顔のドアップ。
 ナマエ頭は真っ白になり体はフリーズした。
 その隙にランスはナマエの口の中へ舌を入り込ませてくる。

「むっ………ぐ!」

 ナマエはランスを押し退けようとするが、両手を押さえつけられてしまい抵抗できない。
 しばらくしてランスはナマエの口内の味を堪能し終えると「ごちそうさまでした」と口を離した。

「……な、なななっ……」

 顔を真っ赤にしその場に力なくへたりこむナマエ。

「確かにそれなりには美味しかったですね。それではわたしはまだ仕事が残っていますので」

 カツカツカツ、とブーツの音を響かせ満足げに笑いながらランスは去っていった。





ぽきゃろ様相互記念、ランス甘
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