短編小説 | ナノ
「こんばんは、ランスさん」


 久しぶりにナマエに会った。以前最後に会ったのはいつだっただろう、それすらも思い出せない。

「久しぶりですね。少しランスさんの顔を懐かしく感じちゃいました」

 まず始めに目を潰した。何も見えぬように。

「でもやっぱりランスさんに会うと嬉しいです」

 次に耳を切り落とした。何も聞こえぬように。

「どうしてか、ですか?」

 次に鼻を削いだ。何も嗅ぎとれぬように。

「照れ臭いですけど、わたしがランスさんを大好きだからですかね」

 次に口を縫い付けた。何も喋れぬように。

「わたしは本気ですよ? 世界で一番ランスさんのことが好きです」

 次に腕を張り付けた。何も触れられぬように。

「あなたはわたしをどう思っているのか知りませんが、」

 次に足に鎖をつけた。どこにもいけぬように。

「本気で愛してます。ランスさん」

 そして最後に―――

「わたしはナマエとは一緒にいられません」
「……どうしても駄目ですか?」
「無理ですね」
「理由をきいても、いいでしょうか」

 わたしでは、あなたを不幸にしてしまう。
 あなたには、もっといい人生があるはずだ。
 あと少しで言える、
 さあ最後の仕上げを。

「わたしがナマエのことを嫌いだからです」

 最後に心を殺した。何も感じぬように。
 今日、わたしは自分を殺し終えた。

 さようならナマエ、わたしの知らぬところでどうか幸せに。



叶う望みは微塵もない
願うことに意味はなく
喉を掻き切る勇気もない
愛を叫べる術が欲しい
 (20100430)
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